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ある晴れた日に
396部分:目を閉じてその二十三
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目を閉じてその二十三

 車両の中は二人の他は誰もいなかった。左右の車両に何人か酔い潰れている人間や一人で座っている人間がいるだけだ。夜の静かな車両の中だった。
 その中で二人並んで座っていて。正道の方から声をかけてきた。
「なあ」
「何?」
「駅まででいいんだよな」
 こう未晴に尋ねるのだった。
「その。一緒にいるのは」
「何だったら家まで御願いできるかしら」
 未晴は俯いて正道に言葉を返した。
「よかったら」
「家までか」
「ほら、最近物騒よね」
 そのうえでこのことも彼に話した。
「だから。よかったらだけれど」
「俺の方こそいいのか?」
 逆にこう問い返す正道だった。
「おたくの家まで一緒にって」
「じゃあ送って欲しいの」
 そんな正道を気遣ってあえて言葉を言い替えてみせた未晴だった。
「私の家の前まで。御願いできるかしら」
「家まで送るのか」
「ええ」
 それだというのである。正道を立てた言葉だった。そしてその心遣いは正道の中にもそのまま音もなく滲み込んだのであった。
「そうだな。それだったらな」
「いいかしら」
「俺の方からも頼むな」
 確かに伝わっていた。実際に彼はこうも言い替えたからだ。
「送らせてくれるか」
「ええ。是非」
 正道の気持ちを汲み取った言葉がまた出された。
「私の家までね」
「わかったよ。それじゃあな」
「家族はもう寝てると思うけれど」
 少し俯いて言った未晴だった。
「それでも。御願いね」
「もう寝てるか」
 正道はそれを聞いて自分の左手首を見た。そこには腕時計があった。黒くて薄いごく普通の腕時計であった。そこの目盛りに出されている時間を見てまた言った。
「そんなに遅い時間じゃないけれどな」
「お父さんもお母さんも夜早いの」
 こう答える未晴だった。
「だからね」
「夜は早いのか」
「そうなの。子供は私一人だし」
 ここではじめて自分の家族構成も話す未晴だった。
「それでね。他は誰もいないから」
「ああ、じゃあ三人家族か」
「そうなの」
 あらためてこのことを正道に話した。
「お爺ちゃんとお婆ちゃん達は別の場所に住んでいてね」
「うちは一緒に住んでるけれどな」
「正道君のところはそうなの」
「そうさ。ところで今な」
 少し笑って未晴に言ってきた。
「名前で呼んでくれたよな」
「あっ・・・・・・」
 言われて未晴もそれに気付いた。気付いてはっとした顔にもなる。
「そうね。今ね」
「名前か。何かいいな」
 呼ばれて悪い気はしないといった顔の正道だった。
「これもな」
「御免なさい、つい」
「謝ることはないさ」
 それはいいというのだった。実際に不機嫌な顔にはなっていなかった。
「こっちも未晴って呼ん
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