第一章
[2]次話
美声の魔術師
インドネシアのマルク諸島にあるハルマヘラ島に住むタバルス族に伝わる伝承である。
この島にタバディクという若者がいた、家は貧しいが幼い頃から魔術を学びそれにかなり長けていた。
「私がそなたに授けたのは様々な術だ」
「この辺りの術だけでなくですね」
「そうだ、イスラムの魔術に中国の仙術等もだ」
そういった様々な術をとだ、魔術師は浅黒い肌で中背の若者に話した。引き締まった顔立ちは整い長い黒髪が美しい。黒い目からは強い光が放たれていてそのうえ声は極めてよかった。
「教えてきた、しかも顔と声がいい」
「だからですか」
「そなたは必ず魔術師として大成し」
そしてというのだ。
「よき妻もだ」
「迎えられますか」
「そうだ、占いをしてみよ」
魔術師はタバディク自身に告げた。
「そうしてみよ」
「さすればですか」
「わかる」
「それでは」
タバディクは師の言葉に頷き早速だった。
知っている占術の中から今すぐ行えるものを行った、すると彼自身もわかった。
「わかりました」
「何と出ている」
「はい、近くの村の長者の家に行けば」
それでというのだ。
「七人の娘がいますが上の六人は既にですが」
「相手がいるか」
「末の娘はです」
「その娘とだな」
「そう出ています」
「わかった、ではな」
「はい、すぐに行ってきます」
妻を迎えにとだ、こう言ってだった。
彼は実際に妻を迎える為に詩人の姿になって長者の見事な屋敷の前に行って求婚の歌を歌った。するとまず六人の娘達、既に相手がいる彼女達が言った。
「屋敷の門の前で歌っている人がいるけれど」
「随分声が奇麗な詩人ね」
「しかもかなりの美男子だわ」
「これはと思うけれど」
「私達はもう結婚してるし」
「残念だわ」
「うむ、だからそなた達は出るでない」
娘達の父親である長者もこう言った。
「いいな」
「ええ、わかっているわ」
「私達はもう結婚しているから」
「だからいいわ」
「もうね」
「私達は出ないわ」
「そうしておくわ」
こう言ってだ、上野六人の娘達は屋敷から出なかった。それで長者は一番下の七番目の娘、大層可愛らしい外見のピマカに対して言った。
「そなたが行くのだ」
「私がですか」
「そうだ、そなたにはまだ夫がいない」
それ故にというのだ。
「まずはだ」
「どういった方かをですか」
「見てきてだ」
そうしてというのだ。
「そのうえでな」
「私がですね」
「そして私の前にも連れてきてだ」
こうも言うのだった。
「私も判断しよう」
「それでは」
ピマカは父の言葉に頷いた、そしてだった。
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