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肝を買い
第二章
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 何でもないかの様に跨いで先に進んだ、橋を悠然と渡り切って船で川を渡って来た男に対して言った。
「どうじゃ、何もなかったであろう」
「よく渡られましたな」
「だから言っておろう、これ位はな」
「何でもないですか」
「そうじゃ、寝ている大蛇なぞ怖くとも何ともない」
「そうなのですね」
「寝ている大蛇より起きている毒蛇の方が遥かに怖いわ」
 大きな口を開けて豪快に笑って言った、そしてだった。
 藤太は男と共に先に進んだ、その夜だった。
 夢にとてつもない大きさの龍が現れた、見れば鱗の色が橋にいた大蛇と同じだ。それで藤太は若しやと思い龍に問うた。
「貴殿まさか」
「左様、橋の大蛇じゃ」
「やはりそうであったか」
「あそこに大蛇に姿を変えて横たわっておったのじゃ」
 龍はその巨体で藤太に空から話す。
「ずっとな」
「それは一体何の為に」
「うむ、人を探しておってな」
「人を?」
「わしは今三上山の大百足と揉めておってのう」
「わかった。ではその大百足を倒す為にか」
「助太刀してくれる者を探しておる、相手は手下の百足共をわしに向かわせて来る。手下の者達は倒せるが」
 しかしと言うのだ。
「そこに大百足ともなるとな」
「手が足りぬか」
「そうじゃ、それで大百足にも向かえる強い者を探しておったが」
 それがというのだ。
「お主は大邪にも恐れずわしを跨いだ、その胆を買ってじゃ」
「わしに助太刀を求めたいか」
「うむ、頼めるか」
「わしでよければな、大百足なぞあれじゃ」
 夢の中でも明るく笑ってだ、藤太は言うのだった。
「唾で充分じゃ」
「百足は鍔に弱いからか」
「そうじゃ、それさえあればな」
 まさにというのだ。
「何も恐れることはない」
「だからか」
「貴殿の願い引き受けよう」
「やはり見事な胆、期待させてもらうぞ」
「ではな」
「それで若し我等が百足を倒せたなら」
 龍は藤太にそれからのことも話した。
「礼として黄金の鎧と太刀をやる、この二つを使って朝敵と戦えばな」
「勝てるか」
「そして将軍ともなれる」
「地位と栄誉も得られるか」
「そうじゃ、お主の胆に相応しいものが与えられる」
「それは面白い、では三上山でもわしの胆を見せよう」
「それではな」 
 龍は藤太の言葉に頷いた、そうして彼の夢の中から姿を消した。藤太は朝起きるとそのまま三上山に行きそのうえで大百足の姿を認めると平然と弓矢を出して矢の先に己の唾を付けて放って百足を倒してしまった、これには龍も驚いたがそれでもだった。
 龍は約束通り藤太に黄金の鎧と太刀を与えた、藤太は龍に言われた通りその鎧と太刀を使い朝廷の為に戦い見事将軍になった、このことを誰もが褒め称えたが瀬田橋のことを知る者達は誰もがこう言った。

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