第一章
[2]次話
胆を買い
瀬田橋はこの時使えなくなっていた、俵藤太はその話を聞いてその橋に向かう途中だったが平然として言った。
「そんなことはどうでもいいわ」
「構いませんか」
「全く以てな」
藤太は話をした者に明るくかつ豪快に笑って答えた。
「どうでもいいことじゃ」
「ではこれより」
「うむ、橋に向かいな」
その瀬田の橋にというのだ。
「そしてじゃ」
「橋を渡られますか」
「そうする」
こう言うのだった。
「むしろ何故それだけで誰も橋を渡らぬ様になった」
「いえ、流石にです」
それこそだ、話をする者はあくまで笑う藤太に眉を曇らせて言うばかりだった。
「それでは」
「だから橋を避けてか」
「そうです、川を泳ぐなり舟を出してなりしてです」
「折角橋があるのにそれでは意味がないではないか」
「しかしです」
それでもと言うのだった。
「幾ら何でも」
「それでは何でもないことをこれよりわしが見せよう」
「俵殿がですか」
「そうじゃ、そんなもの恐れることは全くない」
それこそ何一つとしてというのだ。
「だからな」
「これよりですか」
「怖くないことを見せる」
こう言ってだ、藤太は立ち上がってだった。
そのうえで瀬田の橋に向かった、するとその橋にだ。
巨大な、それこそ何丈あるかわからない位の緑の鱗の大蛇が横たわっていた、藤太と共に橋の話をした者が藤太に言った。
「お話しましたが」
「この通りじゃな」
「はい、大蛇が横たわっていて」
「誰もが大蛇を恐れてじゃな」
「橋を渡らないのです」
「確かに聞いた通りじゃ。しかしじゃ」
藤太はその大蛇を見ても平然として言うばかりだった、眉一つ動かさずそのうえでだ。
「蛇は案外怖くないぞ」
「大蛇でもですか」
「むしろ毒蛇、蝮の方が怖いわ」
そちらの蛇の方がというのだ。
「迂闊に近寄れば噛まれるからのう」
「そして毒で死ぬからですか」
「そちらの方が怖い、しかし大蛇はああして横たわっておる時やとぐろを巻いている時はな」
そうした時はというのだ。
「ただ寝ておるだけ、だから跨いで渡ってしまえばよい」
「襲われませんか」
その寝ている蛇がとだ、その者は藤太に橋を前にして問うた。
「そして一口で」
「その時はじゃ」
「どうされるのですか」
「刀があるではないか」
腰のそれを見ての言葉だった。
「そうではないか」
「闘うまで、ですか」
「そうじゃ、言うまでもないと思うが」
「ううむ、凄い胆ですな」
「ははは、そうかのう」
藤太は男に笑って言ってだった、そのまま橋に足を踏み入れてそうして先に進みその大蛇をだった。
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