第四章
[8]前話
「ですからここは」
「そうですね、法空様もそう言われていますし」
女もここで頷いた、そうしてだった。
角棒を収めそのうえで良賢に言った。
「角棒での仕置きは止めます」
「有り難うございます」
「ですが貴方をこれより薩摩にまで送ります」
「九州の最果てに」
「そこからここまで戻ってくるのです」
法空の下にまでというのだ。
「そうしてご自身の煩悩を反省するのです」
「わかりました」
良賢も心から反省しているので頷いた、そうしてだった。
女は彼の腕を掴むとそのまま放り投げた、すると彼はあっという間に桜島の前に落ちた。そこからだった。
苦心してようやく下野の法空の寺まで戻った、それまで何ヶ月もかかったが何とか戻って来ることが出来た。
そのうえでだ、こう法空に言った。
「いい薬になりました」
「良賢殿にとって」
「はい、まことに煩悩はです」
「絶つべきものですね」
「女色について。もっと言えば」
「あらゆる煩悩がですな」
「絶つべきものです」
まさにというのだ。
「出家しているなら尚更」
「その通りですね、そしてそのことが」
「よくわかりました」
良賢は法空に語った。
「この度のことで」
「それは何よりです」
「全くです、ただ」
「ただ、とは」
「まさか鬼がです」
あの女のことも話すのだった、今寺にいるのは二人だけだ。
「御仏の教えを聞いているとは」
「そのことですね」
「今も驚いています」
「やはり鬼といいましても」
「あの人が言われる通りですね」
「そうです、徳を備え御仏の教えを慕う人もいて」
そうしてというのだ。
「今もそうされていますが」
「御仏の教えを聞かれていますか」
「そうした鬼もいるのです」
「そういうことですね、そのこともわかりました」
こう良賢に言うのだった。
「まことに」
「それは何よりです、では」
「この度はこのことをお伝えに参上しました」
薩摩から下野まであえて戻ってだ。
「そうしました」
「ではこれからは」
「また修行の旅を続けます、そうして煩悩を祓い」
己に災厄と戒めをもたらせたそれをというのだ。
「そのうえで見聞を広められますか」
「そうされますか」
「これからも。ではこれで」
「また機会があればお会いしましょう」
良賢は法空に深々と頭を下げた、そうしてだった。
再び修行の旅に戻った、法空は彼の姿が見えなくなるまで見送った。法空は後に良賢という高僧が常陸の地で多くの人に優れた説法を行ってその心を救ったと聞いて笑ったという。それはあの女も同じだったと世の人達は伝えている。
善鬼 完
2018・11・16
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