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大阪のうわん
第三章

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 二人はまた教会の近くに来た、だがここで。
 教会の前で掃除をしていた神父が二人に言ってきた。四十代位で質素なカトリックの神父の服が似合っている。
 その彼がだ、二人を見て言ってきた。
「お二人共さっきうちの教会の前通りましたね」
「はい」
 その通りだとだ、朝美が答えた。
「そうでしたけれど」
「その時にです」
 晃は神父に自分から言った。
「急にうわんとです」
「教会の方からですね」
「叫ばれたんですが」
「あれうちの教会に住み着いている妖怪で」
「妖怪?」
「はい、この教会は実は明治の頃からある古い教会で」
 それでというのだ。
「何時の間にかうわんという妖怪が棲みついていて」
「そうだったんですか」
「ちなみにこんな外見です」
 神父が言うと教会の玄関から仏教の僧侶の服を着た墨汁の様に黒い肌の逞しい老僧の外見の者が出て来た、神父は彼を紹介しつつ話した。
「この妖怪がうわんです」
「はじめましてだな」
 その妖怪は夫婦に右手を挙げて気さくに挨拶をした。
「わしがそのうわんだ」
「妖怪さんですか」
「この教会にいるな」
「あの、何か」
 気さくな態度の妖怪にだ、朝美はどうかという顔で言った。
「随分明るいですが」
「妖怪は暗いと駄目か」
「そう言われますと」
「わしはこうした性格でな、趣味は酒とゲームセンター通いと住之江に行っての競輪だ」
「競輪ですか」
「それでこの教会の家賃と代々の神父の生活費と教会の維持費等も賄っている」
「うちはこの通り貧しい教会ですが」
 神父は朝美達に微笑んで話した。
「ですが」
「それでもですか」
「はい、うわんさんのお陰で」
 妖怪が競輪で金を出してくれてというのだ。
「暮らせています」
「そうですか」
「博打は昔から強いぞ」
 妖怪は笑ってこうも言った。
「昔からそれで暮らしてきたしな」
「何か妖怪がギャンブルするとか」
 首を傾げさせてだ、晃も言った。
「何かです」
「おかしいか」
「人間味があるというか」
「人間の様か」
「そう思いました」
「ははは、こうして人間の中で暮らしているとな」
 うわんは晃に笑って返した。
「こうしてな」
「人間味がですか」
「出るものだ」
「それでギャンブルもですか」
「するぞ、酒もな」
 こちらもというのだ。
「好きだしな」
「そちらも人間味がありますね」
「夜に一人で静かに飲むのが好きだ」
 それが自分の飲み方だというのだ。
「毎晩飲んでるぞ」
「ちなみに質素で子供には優しいです」
 神父はうわんのこのことを話した。
「子供達は普通にお坊さんと思っています」
「教会にいても」
「はい、それでも」
 宗教が違ってもというのだ。
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