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戦国異伝供書
第四十二話 信濃の南その十一

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「本当にまさかと思うがな」
「一戦で滅亡するか大きく力を削がれる」
「その危険もある」
「では」
「やはり当家は急ぐというかな」
「足止めをされぬ様にじゃな」
「していこう」
「それでは」
 信之は昌幸の言葉に頷いた、そして昌幸は晴信自身にも自分の考えを話した。すると晴信もこう言った。
「それはわしもじゃ」
「長尾家については」
「考えておった」
「若しですな」
「信濃の全てを手に入れてな」
「その時に越後と境を接し」
「長尾家と長く対する様になればな」
 その時はというのだ。
「当家にとって難儀なことになる」
「左様ですな」
「間違いなく長尾家とは対する」
 そうなってしまうことは間違いないというのだ。
「このことはな」
「避けられませぬな」
「うむ、しかしな」
 それでもとだ、晴信は話すのだった。
「それを長引かせぬこととな」
「備えはですな」
「海津に城を築き狼煙や道の用意をしてな」
 そしてというのだ。
「後ろの憂いもじゃ」
「北条家、今川家と結ぶ」
「確かなものとしてじゃ」
「長尾家と対し」
「そのうえで美濃じゃ」
 上洛、それを見据えるというのだ。
「やはりな」
「そしてどうしても」
「織田家はな」
「用心せねばなりませんな」
「あの者、聞けば聞く程じゃ」
 織田信長、尾張の主である彼はというのだ。
「恐ろしい者じゃ」
「天下の器ですな」
「そうじゃ、まさにじゃ」
「お館様が片腕とされるに充分な」
「そうした者じゃ、若しあの者がわしの片腕にならぬなら」
 その場合もだ、晴信は話した。
「わしがじゃ」
「織田殿のですか」
「家臣となってな」
 そうしてというのだ。
「長尾虎千代と共にじゃ」
「織田殿の片腕にですか」
「なっておるやもな」
 逆にだ、そうなっているかも知れないというのだ。
「まさにな」
「お館様を家臣にされる」
「そこまでの者であろう」
 自分が信長を家臣にしなければというのだ。
「あの者を家臣に出来るのはわしか長尾虎千代だけであろうが」
「お館様を家臣に出来るのもまた」
「あの者かな」
「長尾殿だけですか」
「そう思う、だからな」
 それでと言うのだった。
「織田家にはな」
「先んじることをですか」
「考えておる」
 今からというのだ。
「何かとな」
「そうですか」
「ましてあの者は豊かな尾張にじゃ」
「豊かな田畑と街を多く持つ」
「そこに間もなく伊勢や志摩も手に入れるであろう」
 この二国もというのだ。
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