『天才』の足跡〜その一〜
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」
「………」
気合いの入れどころが百八十度くらい違う気がしてならなかった。
まだ、高層ビルの屋上にあるような応接室で、黒服を着たボディーカードに囲まれながらされた方が良かった気がする。
「んで、どうする?無論、無理強いはしない。君が今の生活の方がいいと言うのなら、それでも構わないが──」
「──随分と良い皮肉じゃないか」
私は、随分と久しぶりに、怒りというものを覚えた……いや、私の記憶にある限りでは、私は「怒ったという」記憶が、ほとんど無かった。
そうか。
これが、怒りか。
「フフフ…………ハッハッハ」
途端に可笑しくなってしまった私は、思わず吹き出した。それを不思議そうな目で見る神谷。
「いやぁ…………あんな状況にすら怒らなかったのに、そんな一言で怒るとは思わなかったからな」
「それはいい。感情ってのは神がくれた贈り物だからね。存分に味わうといい……ま、ある人の受け売りだけどね……さてと、何か他に聞きたいことは?」
神谷はそう言うと、佇まいを直し、私をじっと見つめてきた。
私の中では、既に選択は決まっていた。
後は、そこまでの過程が許されるかどうか──。
「艦娘には、犯罪者でもなれるのか?」
─男の家─
私は、深夜二時頃に、あの男の家へと戻っていた。
いつもより幾分か早い時間だが、あの男は起きているだろうか。起きているのであれば、一時間後くらいに出直そうと考えていた。
しかし、いつもは近所迷惑なほど辺りに響き渡っている奇声は欠片も聞こえず、あたりは静まり返ってした。
もっとも、五月蝿いのはあの男だけではない。同じようにクスリをやっている者や、自室に男を連れ込んでいる水商売の女や、虐待による子供の悲鳴も聞こえてくる。
この当辺りは、そんな街なのだ。
「………」
男の住んでいる部屋に入ると、やはり真っ暗だった。クスリを探してたからか、部屋の中はより一層荒れていた。
──もう、片付けなくていい。
そう思うだけで、私の心は晴れやかだった。
私は、足音を立てないように、そっと、一歩ずつ進む。
そして、リビングに入ると、辛うじて引かれている布団に、あの男が座っていた。
実に、幸せそうな顔だった。
ふと、棚に映った、私の顔も見えた。
実に、幸せそうな顔だった。
この男や私の、こんなに幸せそうな顔は、産まれて始めてみた。
──そして、この男の顔は、これで見納めだった。
私は体裁だけは存在している台所へ向かい、一本の包丁を手に取る。
それは、まだ私の母が生きていた頃に使っていた包丁だった。
「……
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