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ちょっと変わったお姉さんと少年のお話
ちょっと変わったお姉さんが少年と旅行に行くお話
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な言葉で応じる。――使いである少年の言葉を、彼女の言葉そのものとして受け止めているに違いない。

(あの、館長さん、『お嬢様』って、いったい何者なんですか?)

 そう聞きたい気持ちをぐっと堪えて、館長の後に続いて土蔵に戻っていく。
 少年が空を見上げると、太陽は山の方へと大きく傾いていた。


……。
 1日の調査を終えた2人を乗せたタクシーは、暮れなずむ山間いの道を進む。
「あの町にも、駅前に大きなホテルとかありましたよね」
「私が泊まると皆様にお手間をお掛けしますので、敢えてひとつ山を越えた隣村の旅館を予約してあります」

 少年の問いかけに対し、運転手にも聞かせるような口調で丁寧に答えた。

「わたくしどもとしてはまことに残念ではございますが……。これも深いご配慮の上かと存じます」

 ハンドルを握る運転手の額にわずかに汗がにじむ。

「皆さまとはまた、次の機会にゆっくりとお話ししましょう」
「は、お嬢様のお心遣いの数々、誠に痛み入ります」

 2−30分ほど曲がりくねった道を走り、峠を超え、眼下に小さな温泉街が見える頃には、陽はとっぷりと暮れていた。
 山間いのささやかな温泉街の街明かりが、ぽつぽつと夕闇の中に浮かび上がっている。

 車は、温泉街の中でもひときわ大きな旅館に近づいていく。

「あ、あれ……」
「あれが、本日の宿ですわ」

 女が顔を向ける先に、豪勢な木造造りの旅館の建物が見える。
 旅館に着くと、女将が広々とした玄関で出迎えた。

「ようこそ、お越しくださいました」
「どうも、お世話になります」


……。
「こ、この部屋、凄い、で……す」

 チェックインを済ませ、部屋に通された少年は出されたお茶を一口飲み、ぐるりと四方を見渡して素朴な感想を漏らした。
 
 広い畳敷きの部屋はほのかにヒノキと畳の香りが漂い、大きな床の間には鯉が描かれた掛け軸が掛けられ、鮮やかな花が生けられている。
 目の前の湯呑みも茶托も金箔がさりげなくあしらわれ、まだ人生経験が浅い少年が見ても、はっきりと高価なものだと感じ取れる。

「い、いったいお幾ら……」
「君は何も心配することは無い。注文は『ジーンズを履くな、ジャケットを着て来い』――それだけだったろう?」

 シャツの上から着慣れないジャケットを着て、スラックスを履いた少年が茶菓子を頬張る。

「はい。で、でもこの部屋、あんなものまで」

 少年が窓の外に目を向けると、窓ガラスの向こうに小さな露天風呂が見える。

「こんな旅館に泊まるのも初めてだし、まして、あんなお風呂まで付いてるなんて。……凄い、です」

 少年は、昼間の出来事を思い返しながら――確信していた。

(この人は……どこ
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