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ちょっと変わったお姉さんと少年のお話
ちょっと変わったお姉さんが少年と旅行に行くお話
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顔をじっと見ていると、身も心も吸い込まれそうに感じ始めた――その時。

 ぐうぅ、きゅるるぅ。

 早朝から何も食べてない少年のお腹が鳴った。

「あ」

 少年が顔を耳まで真っ赤にして、お腹に手を当てる。

「……、ふ、ふふふっ」
「……ぷぷっ、くく、ははははっ!」

 女が口に手を当てて、珠を転がすような声で笑う。
 ハンドルを握る運転手も、笑いを堪えきれず、女が笑い出した後に続いて、口を開けて笑った。

「ははっ。お嬢様、町長には事情を話しときますんで、どこかに立ち寄ってお坊ちゃんにご飯を食べさせてあげましょう」
「そうね……。時間がないから、コンビニでもいいかしら。私は結構ですので」
「かしこまりました」

 道路脇のコンビニにタクシーを止めると、運転手が駆け降り、後部座席のドアを開ける。

「あの、車の中でおにぎりとか、お茶とか、大丈夫……」
「本当は駄目だけどな、坊ちゃん」
「助手、ですわ」
「助手――のあんたが腹ペコじゃぁ、お嬢様が仕事になんねぇだろ」
「はぁ。ありがとうございます。……あ、あの、ゆーさんの分は……」

 女は表情を変えず、かすかに首を横に振る。
 運転手は女をあだ名で呼びかけた少年に対して目を剥き、驚愕の表情を見せた。
 
「……い、行ってきます!」

 少年が車内の空気のざわめきを感じ取り、慌ててコンビニの店内に入って行った。


……。
 町役場でも町長が外まで直々に出迎え、古参の職員とともに資料室を案内する。
 
 何百年と続く建築会社でも、社長と、隠居した元社長が、創業時代の帳面や大工道具を持ち出して丁寧に彼女に説明をする。
 
 休日は閉館しているはずの郷土資料館――かつての豪商の家は、『連休の初日だけ特別に』臨時開館しており、館長が古い商家の庭先に有る土蔵に納められた非公開の所蔵品を手に取り、女に事細かに説明する。


 彼女は、明確に特別な扱いを受けていた。


「あ、あのぅ」
「ん?」
「話は付けてある……って、言いましたけど」
「ん」
「な、なんでわざわざ、館長さんや町長さんが出てきて、あなたの事を『お嬢様』って呼んで、あんなに丁寧に……」
「話は付けてある。それだけだ。同じことを何度も言わせないでくれ、少年」
「……」

 土蔵から運び出された陶器や古文書の写真を撮り続け、メモを取り続ける女におずおずと話しかけた少年は、それきり黙り込むしかなかった。

「よし、終わった、館長を呼んできてくれたまえ」
「……はい」

 少年が郷土資料館の館長を呼びに商家の裏口に入る。
「館長さん。『お嬢様』が、調べものが終わりました、と仰っております」
「はい、承知しました」

 館長は、少年に丁寧
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