ちょっと変わったお姉さんが少年と旅行に行くお話
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これは、違う」
少年の問いかけを無視して、陶片を木箱に納める。
「ゆーかさん!」
「3−D−8だ」
「え?」
「戻してきてくれ」
「はい?」
「3−D−8だ!」
少年に箱を差し出す。
何か言いたげだったが、少年は黙って箱を受け取り、指示通りの棚に戻しに行く。
「戻してきました」
「4−A−3だ」
「えーと」
「T−245を、持ってきてくれ」
「……」
鍵束を渡された少年が指示された場所に向かい、キャビネットの引き出しの鍵を開けるとさっきと同じような木の箱が並んでいる。 その1つのラベルに、『T−245』と書かれているものを見つけ、女のいる所蔵庫の隅の机に戻る。
「持ってきました」
「ん」
女が箱を受け取ると、中から同じような陶片を取り出し、また食い入るように観察する。
「……うむ。こちらの紋様がより近いな、撮っておこう」
女がデジタル一眼レフカメラを鞄から取り出し、いろんな角度から何枚も写真を撮り、ノートにメモを取る。
「写真、撮っていいんですか?」
「話は付けてある」
「話……って」
「館長から所蔵品は好きなようにしていいと言われてるんだ。もちろん盗んだり壊したりするつもりはないぞ。次、1−C−5、F−116!」
「はい!」
箱を突き返された少年がまた所蔵庫のキャビネットに向かう。
……。
昼過ぎまで、少年が所蔵品を持ち出しては返し、持ち出しては返しを繰り返すと、女は手を組み大きく伸びをして、ノートパソコンに取り込んだ写真の映り具合を確かめてから、カメラやノートやパソコンを鞄に仕舞いこんだ。
「よし、終わった。館長を呼んできてくれ」
「あ、はい。えっと、お昼はどうし……」
「時間が無い、次を急ぐ」
女は手首にはめた金時計をちらりと見やると、スカートに付いた埃を払い、ジャケットを着る。
博物館を出てタクシーが駐車場を出るまで、館長と副館長が並んで深々と頭を下げ、見送っていた。
「あの、いったい、これはどういう事……」
「吉川さん、役場には連絡を取っておいて頂けまして?」
「は。少し遅れる旨も伝えております」
「ご迷惑をおかけしますわ」
「いえいえ、お心遣いありがとうございます」
少年の問いかけを無視して運転手の名を呼び、にこやかに微笑む。
バックミラー越しの運転手の目じりが少しの間だけ下がり、それからきりっとした表情に戻った。
――やんごとなき御方を乗せた貴賓車(センチュリー)の運転手のように――。
少年が女の横顔を見る。
帽子を脱ぎ、ひざの上にに乗せた黒髪の女の顔は前方を見据え、凛とした表情を浮かべている。
「……」
(ゆーかさん、まるで……)
彼女の
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