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ちょっと変わったお姉さんと少年のお話
ちょっと変わったお姉さんが少年と旅行に行くお話
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顔がみるみる赤くなり、その両手が柔らかい素材のズボンのジッパーの部分を押さえつけた。


……。
「お待ちしておりました、お嬢様」

 新幹線を乗り換えた先、ローカル線の駅で待ち構えていた黒塗りのタクシーの運転手が、わざわざ自分でドアを開けて彼女を後席に迎える。

「ありがとう」
「恐縮です」

 アルカイックな微笑みを浮かべた女が帽子を取り、優雅に身をかがめ、タクシーの車内に乗り込む。
 荷物をトランクに積め終えた少年が女の隣に座ると、タクシーのドアが静かに閉まり、運転手がきびきびとした所作で運転席に戻る。

「お嬢様、シートベルトをお締め下さい」
「ええ」
「あと、そちらのお坊ちゃんも」
「ああ、この子は私の助手ですから」
『助手!?』

 運転手と少年が同時に声を上げた。
 彼女の指先が、少年の脇腹を突っつく。

「はは、これはまた随分とお若い助手をお持ちでいらっしゃいますな」
「これはまだまだ若輩ですが、今のうちから色々と勉強させておこうかと思いまして、こうして連れてきました」
「それはそれは……。あなたもお嬢様の下でしっかりと勉強するんですよ」
「は、はい、頑張り、ます」

 初老のタクシーの運転手の丁寧な言葉遣いを聞いて、少年が少し戸惑いの表情を浮かべる。
 落ち着かない様子で窓の外を見たり、彼女を横目で見たりしているうちに、最初の目的地である博物館に着いた。
 祝日の賑わいを見せる博物館の正面玄関――を通り過ぎ、建物の横側にタクシーが止まる。
 タクシーの運転手と同じくらいの年齢と思しき初老の男性が、直立不動の姿勢で、ぱりっとしたスーツ姿でお出迎えしていた。

「お待ちしておりました、お嬢様」
「ありがとう」

 深々とお辞儀をする男が胸に付けている名札には『館長』の文字が光る。

「生憎の祝日で表玄関は混んでおりますので、まことに失礼ながら裏口よりお入り頂くことになります。申し訳ありません」
「構いませんわ。展示物を見にお伺いしたわけではありませんので」
「長旅でお疲れかと存じます。まずは、お茶でも喫(の)んで一休みされては如何でしょう」
「せっかくのお心遣い申し訳ありませんが、今回は急ぎで回りますので、次の機会にでもゆっくりと。……昼過ぎには村役場――ああ、今の町役場に参ります」
「は」

 女がトランクの中のキャリーバッグから鞄を1つ取り出し、少年に黙って手渡す。
 タクシーを待たせたまま、館長の案内で2人は建物の中に向かった。


……。
「ゆーさん、これってどういう事ですか?」
「……」

 彼女は博物館の所蔵庫で、白手袋を嵌めて所蔵品の陶器の破片を手に取り、ルーペで食い入るように観察する。
 
「ねえ、聞いてます?」
「……
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