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ちょっと変わったお姉さんと少年のお話
ちょっと変わったお姉さんが少年と旅行に行くお話
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 今度は少年が肩を大きく震わせ、泣きはじめた。

「よ、よかった、ゆーかさん、死んじゃうんじゃないかって、僕、僕……どうしようかって」

 えぐ、えぐと胸に顔を埋めて泣く少年の頭を、女は力の入らない手をゆっくりと持ち上げ、静かに撫でる。

「君に、心配かけたか」
「……いいんです、ゆーさんが正気を取り戻してくれたから」
「少年、あのな」
「……はい」

 頭をなでる手と、少年の背中に回った女の片手に、強い力が入る。

「私の本名は、呼んではいけないのだ。前にそう言っただろう」
「……ごめんなさい」
「就中(なかんずく)、『真の名』は、私の父母以外、私に対して、……決して呼んではならぬのだ」
「……ごめんなさい、でも……」

 少年が、胸から顔を離し、彼女の目をまっすぐに見据える。
 まだ穢れを知らない子犬のように純真な、こげ茶色の瞳。

「あなたを落ち着かせるには、あの場では、名前を呼ぶしか……」
「少年、我が家系(いえ)の人間の『真の名』を呼んだら、どうなると思う?」
「え」

 女の瞳が、怒りとも戸惑いともつかない感情を湛え、不気味な光を帯びている。
 ただならぬ雰囲気に、少年の全身に鳥肌が立つ。

「あ、あ……」
「呼ばれた者は……呼んだ者に魂を吸い取られ、傀儡(くぐつ)と化す。呼んだ者に一生隷属する人形となるのだ」
「……あ」
「少年よ、我が名を呼んだ以上、責任は取ってもらおうか」
「あ……」

 少年が抱きついたままで、女が半身を起こす。
 少年は女に押される形で立ちあがる。
 そして、女は目の前にある、少し萎んでいた少年のペニスと睾丸とを、両掌でぎゅっと握り締めた。

「あ痛っ!」
「これで! 責任を取れ! 私はもう君の物だっ!」
 
 敏感になっていた性器を乱暴に掴まれた少年が、鋭い悲鳴を上げた。

「さぁ、今すぐ!」
「ま、待って下さい!」
「待てん! 人を傀儡にしておいて逃げ出す気か少年!! さぁ私の胎内(なか)にお前の精液を存分に放ち、子を宿すのだっ!」

 女の目と表情には狂気も淫気も感じられない。目が吊り上がり、口をきっと結び、怒りと決断に満ち満ちている。

(悠遥浬さん、本気だ……)

「さあ! さあ!」
「ぼっ、僕は、あなたに、僕の子供を宿すことを約束します!」
「当然だ!」
「でも、それは今夜はできません!」
「何故だっ!?」
「い、今の僕には、あなたの夫となる資格が無いんです」
「構わん! そんなものは後からどうにでもなる!!」
「ゆーかさんが構わなくても、僕が!」

 少年も真剣な面持ちになり、彼女の目を睨み返す。

「僕が自分を許せない! あなたを妻として迎え入れるだけの地位を、人格を、知識を!
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