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戦国異伝供書
第四十二話 信濃の南その一

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               第四十二話  信濃の南
 晴信は一万の軍勢を信濃の南最大の勢力である小笠原家に向けていた。そして小笠原家の帖地に入るとだ。 
 晴信は先陣を行く飯富からだ、この報を受けた。
「そうか、来たか」
「小笠原家の軍勢が」
 報に伝えた旗本が述べた。
「その数七千です」
「七千か」
「はい、それだけです」
「多いな」
「どうやらですな」
 ここで信繁が晴信に話した。
「信濃の国人達に告げて」
「守護の権威で以てじゃな」
「そうしてその者達も連れてです」
「七千か」
「そうかと」
「そうであるか、こちらは一万でじゃ」
 それでと言う晴信だった。
「敵は七千、兵の数ではな」
「こちらが上ですな」
「そしてじゃ」
 晴信はさらに言った。
「こちらはしかとじゃ」
「敵の動きもですな」
「見えておる、ならばな」
「その二つをですな」
「活かしてじゃ」
 そうしてというのだ。
「戦おうぞ」
「それでは」
「うむ、このまま進む」
 小笠原家の方にとだ、こうも言ってだった。
 晴信は兵をさらに進めさせた、そのうえで。
 小笠原家の軍勢と対峙した、見れば確かに兵の数は七千程であり。
 本陣に小笠原家の旗があった、彼等は場の地形を活かして堅固な布陣を敷いていた。しかしその布陣を見てだった。
 高坂が晴信にこんなことを言った。
「お館様、宜しいでしょうか」
「うむ、何じゃ」
「敵は槍が弓矢も少ないです」
「我等よりもな」
「あれでは近くに寄ってもこれと言って強い攻めはありませぬ」
 これが高坂の読みだった。
「ですから」
「それでじゃな」
「はい、まずはです」
 高坂は晴信にさらに話した。
「敵を石つぶてで乱し」
「そこからじゃな」
「騎馬隊を正面から突っ込ませ」
 乱れた彼等をというのだ。
「そうしてです」
「そこからじゃな」
「騎馬隊は一度敵の軍勢を突き抜け」
「そしてか」
「反転してまた敵を攻めます」
「今度は敵の後ろをじゃな」
「はい、そして前にいる兵達はです」
 つまりこちらの主力はというのだ。
「騎馬隊の後で、です」
「騎馬隊が敵の軍勢を突っ切るのを助けてじゃな」
「そのまま攻めて」
 そしてというのだ。
「騎馬隊が馬首を返せば」
「挟み撃ちにするか」
「そうしましょうぞ」
「そうじゃな、今日は厄日であるしな」
 戦をするにはとだ、晴信はこのことについても述べた。
「敵も大きな戦になるとは思っておらぬ」
「それに我等が攻める方もです」
「攻めると敗れるな」
「ですがそこでです」
「一旦突っ切ってな」
「馬首を返して攻めればいいだけ」
「ならばな」
 晴信はさらに言った。
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