第二章 十三年の孤独
第48話 混沌の記憶
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き始めた。
瞬間、頬に走る痛みに少年の思考は停止する。
そして自らの身に起こった現象を理解する頃には、少年は与えられる痛みにただ耐えるだけになっていた。
耳に突き刺さるヒステリックな声、重く響くような痛み、泣き疲れ朦朧とする意識の最中、少年は初めて理解する。
――ああ、そうか。愛してたのは、自分一人だけ。
「カオス」
静かな部屋に響きわたった声に、少年――カオスは目を開けた。
「……クロト、様……」
暗い部屋の中で浮かび上がる姿に言葉を零す。
いつの間に来ていたのだろうか。クロトは穏やかな様子でベッドの端に座ると、寝ているカオスの顔を覗きこむ。
「おはよう。良い夢は見れたかい」
問われた言葉に少し間を置いてから首を横に振ると、険しい表情を浮かばせる。その姿にクロトは「そう」と囁くと、静かな口調で話を続けた。
「そろそろ彼等との約束の時間だ。準備した方が良い」
カオスはこくりと頷くと体を起こし、ベッドから降りる。
それと同時に、天井から吊り下げられていた球体の灯りが点き、溢れた白い光が室内をぼんやりと照らし出す。
「クロト様」
「なんだい」
ぐるぐると左手首に包帯を巻きながら、カオスはベッドに座り続けるクロトに話し掛ける。
「前回はすみませんでした。クロト様の言った事を、叶えられなくて」
前回とは、一回目天馬達と試合をした時の事だろう。クロトは「気にする事じゃない」と言うと、優しく微笑み返す。
その表情をチラリと横目で見ると、すぐさま視線を左手首に戻しカオスは続ける。
「今度こそ、クロト様の願いを叶えてみせます。人間達を倒して、逃げたアイツを連れ戻して……もう二度と、あんな無様な試合はしない……ッ」
包帯の巻かれた左手首を見詰めながら、ブツブツと呪文のように唱えるカオス。
その目はどこか虚ろで焦点があっておらず、クロトに向け発しているはずの言葉は、カオス自身に向けられているようにも感じられた。
「クロト様は、僕を救ってくれたから。あの場所から見つけてくれて、連れ出してくれた。……初めて、初めて認めてくれた。だから、だから僕は、ぼくは……」
「カオス」
不意に肩に乗せられた手にカオスは顔を上げた。ゆっくりと視線を向けるとクロトの赤い瞳が目に留まる。
その瞳が薄く細められたかと思うと、体がクロトの方へと引き寄せられた。突然の事にカオスは驚き抵抗するそぶりをしたが、次に発せられたクロトの言葉にそれも止めた。
「キミは良い子だ、今も昔も。例えキミが私の下した命令を成せなかったとしても、私はそれだけでキミの全てを否定したりはしない」
自身と比べ頭一個分程背の高いクロトに抱きしめられ、自然と彼
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