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色を無くしたこの世界で
第二章 十三年の孤独
第36話 光の後
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 病室に入って来たフェイとワンダバの姿に天馬は言葉を発すると、元気そうな自身の姿に「安心したよ」と笑うフェイの表情へと視線を移す。
 その笑顔からは試合中見た、あの苦しそうな表情など嘘のように消えていて、天馬は少しだけ安心したように言葉を続ける。

「フェイこそ、体調はもう平気なの?」
「うん。ここに来て少し休んだからか、大分良くなったみたい。まぁ、怪我の方は安静にしてないといけないみたいだけど……」

 「軽いみたいだからすぐ治るよ」と笑うフェイ。その後ろでワンダバはその短い腕を組むと、「しかし」と思い悩んだような声を発する。

「試合中に現れたあのローブの人物……一体、何者なんだ……」
「うーん……ボク達を助けてくれたみたいだけど、どうしてそんな事してくれたのか……謎だね……」

 二人の会話に天馬達も同様に頭を悩ます。
 まるで自分の存在を他に分からせないように被られたフード。アレせいであの人物の顔はおろか、男か女かですら知る事が出来なかった。
 そもそも、あの影の世界にはスキア達と自分達、雷門イレブンしかいなかったハズ。
 それなのにどうして、ローブの人物はあの場に姿を現す事が出来たのか……
 考えれば考える程、天馬達の頭の中に黒いモヤのような物が広がっていく。
 考える天馬の記憶に唯一残っているのは、見た事の無い化身と、エメラルド石のように輝いた緑色の瞳だけ……

 天馬は「うーん」と低く唸るような声をあげると髪をかき、脱力したように天井を見詰めた。

「ダメだ、考えても分からないよ」
「うん……今は情報が足りないね」

 フェイの言葉にその場の全員が考えるのを止め、口をつぐんだ。
 数秒の沈黙の後、天馬は何かを思い出したかの様に瞳を瞬かせると、ベッドから体を起こしフェイに尋ねる。

「そうだ、フェイ。アステリは?」

 天馬がそう言うとフェイは一瞬目を丸くし、キョロキョロと周囲を見回し言葉を返す。

「ボクは見てないけど……」
「え」
「あ、アステリなら――――」




 「アステリなら屋上にいる」……その言葉を聞くと天馬は病室から飛び出し、屋上への階段を駆けあがる。
 ペンキが剥がれ粗末に見える白い扉を開くと、地面に座りながらボーッと空を見詰めるアステリの姿を見つけた。
 その背中に天馬は一つ、声をかける。
 突然聞こえた声にアステリは一瞬肩を震わせるも、すぐさまその声が天馬の物である事に気付き、驚いた様子で彼に駆け寄っていく。

「天馬……怪我の方は平気なの?」
「あぁ! へーきへーき!」

 ハツラツと答えた天馬の言葉に「よかった」と微笑むアステリだったが、すぐさま悲しそうに瞳を細め、顔を俯かせてしまった。

「……? アステリ……?」

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