323部分:その日からその十九
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その日からその十九
「だから繁盛してるんだな」
「私クレープ好きだけれど」
実はこれは未晴の好物なのだった。これもまた。
「それ抜きにしても物凄く美味しいわ」
「バナナもいいな」
「ええ。フルーツもちゃんとしたの入れてるのね」
「クレープは生地だけじゃないからな」
彼はまた言うのだった。
「クリームやチョコも大事で」
「それにフルーツもね」
「生地も中に入れるものも大事なんだよ」
「そうなのよね。実は山月堂でもね」
またこの和菓子屋の名前が出るのだった。
「クレープはその三つが大事って五月蝿いらしいのよ」
「五月蝿いのは柳本じゃないのか?」
「まあそうだけれどね」
それは隠さず少し笑う未晴だった。
「咲。クレープも大好きだから」
「あいつは甘いものだったら何でもいいんだな」
「まあ甘党なのは確かね」
それは絶対に否定できないものであった。
「シュークリームもケーキもショコラも何でも好きだから」
「将来絶対に太るな」
咲に対しては実に容赦のない正道だった。
「っていうか和菓子屋の家に入るにはかなり向いてるな」
「お菓子作りも好きなのよ」
「絶対に将来太るな」
正道はそれを聞いてさらに確信するのだった。
「あいつは」
「実はそれが心配なのよ」
未晴もそれを心配しているのだった。
「咲。太るか糖尿病になるんじゃないかって」
「まあどっちかだな」
正道の容赦のない言葉は続く。
「しかも日本酒も大好きだしな」
「お酒も好きなのよ」
余計に始末の悪い話だった。
「それでなのよね。一応言ってはいるけれど」
「全然聞かないんだな」
「それだけはね。食べ物のことにかけては」
実に咲らしかった。彼女にしろG組の面々はとにかく食べ物と酒のことにかけてはどうにもならない面々ばかりなのである。
「子供の頃から」
「あいつらしいな、本当に」
しかし正道は容赦はなくとも意外と認めてもいた。
「そういうところはな」
「ご愛嬌っていうのね」
「ああ。まあそういうところかな」
照れ隠しはするが本当に隠しはしない。
「正直な」
「そうよね。ご愛嬌よね」
「甘いものが嫌いな柳本なんて柳本じゃない」
「褒められてるの?これって」
相変わらずこそこそと見ている面々の中の咲が呟いた。
「咲って。どうなの?」
「褒められてるけれどけなされてもいるね」
桐生はこう彼女に告げた。彼等はクレープ屋の陰に隠れて二人を見ている。店の青年はその彼等に対して穏やかに尋ねてきた。
「お客様達御注文は?」
「苺バニラ頂戴」
咲が最初に青年に応えた。
「クリームたっぷりで」
「はい、わかりました」
「あっ、私もそれ」
「俺も」
「僕も」
皆もそれを注文する
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