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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
予行演習《プロローグ》
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のだ。そうしてアリアは、それに気が付いている。明白な挑発に乗るか否かは、彼女次第だった。


「……馬鹿みたい。絶対に許さないから」


アリアはそう独り言ちたきり徐に、止めていた歩を進めていってしまう。すれ違いざまに香った梔子の匂いには、仄かに潮めいたものも混じっていた気がした。その背を歩きながら追った。
……アリアの往来に吐き捨てた言葉が、彼女の胸の内に燻った感情を明喩していたのには間違いはない。その感情は、自分にも理解できないわけではなかった。むしろ、十二分に同情できるものだった。他人に同情をするあたり、やはり自分はお人好しな人間なのだろう。そうして、母親を想う子供なりの感情──それに当てられてしまったことも、同情の要因になっていた。

自分の母親は、3年前に病死している。アリアの母親にも、経緯はどうであれ、それと同じ結末を迎えさせたくはないのだ。だからこそ、彼女の力になれるならば、最終的にそれが、母娘を助けることに繋がるならば──お人好しと呼ばれても、それだけは叶えてやりたいと思っている。彼女のパートナーになることは、単なる武偵のお遊びではないことを、知ってしまったから。

アリアが彷徨していると分かったのは、それから5分も掛からなかった。ただ人通りの少ない方へと歩いていく後ろ姿を見るうちに、彼女が涙を堪えているのだろうことが察せられたから。時折、その華奢な手を持ち上げて顔のあたりに持っていくごとに、推測は確信になっていった。靴音の間隔も、段々と短くなっている。そうして不意に、その靴音も、止んだ。

アリアが弱々しくしゃがみ込んだのは、この時だった。今まで堪えていた嗚咽が、堪えようにも堪えきれなくなったのだろう──それこそ本当の子供のように泣きじゃくっていた。手の甲で紅涙を拭い取りながら、不規則に肩を震わせて、隠せない嗚咽を吐き出している。
峰理子が武偵殺しであるという、紛れもない事実──それがアリアにとって如何に悲痛な事実であるかは、想像に難くない。この1週間、彼女と理子とは自分やキンジを通して面識があった。会話をしたのも始業式の日の1回や2回ではない。だからこそ、自分のクラスメイトに素性を欺瞞(だま)され続けてきたことが、彼女にとっては驚愕で、同時に悔恨でもあるのだ。


「……これ、使っていいよ。そのままだと手まで荒れちゃうから」
「……ありがと」


泣きじゃくる少女の肩を優しく叩いてから、自分もしゃがみ込んでハンカチを手渡した。勝ち気なアリアのことだから、泣き顔は人に見せたくないと言うだろう。今は別に、それでもいい。
それから、彼女の肩をそっと両手に抱え込みながら、背中を摩ってやった。「……あの子にずっと騙されてたのは、ショックだったよね。悔しいよね。うん、泣いていいんだよ」その言葉はや
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