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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
最悪と災厄
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点の汚れすら存在しない、冷酷なほどに澄んだ、明瞭世界。《緋想》によって創られたこの世界の名を、『明鏡止水』と呼ぶ。……否。《緋想》を媒介として、という方が正解にはほど近しいだろうか。

《明鏡止水》は《緋想》によって創られたものだが、そもそも《緋想》は自分の始祖、歴代最高峰の陰陽師として名高い安倍晴明が打ったとされる刀──いわゆる妖刀だ。
清明の打つ妖刀は使用者の()を吸収し、それを能力として具現化させる。それが、《明鏡止水》として表れた。大刀契としての能力は始祖の引く直系子孫のみしか扱えず、それ以外の人間が使っても、ただの斬れ味の良い日本刀にすぎない。……それでも十分では、あるのだが。

視線だけを動かして周囲を見澄ます。8台のセグウェイは全て、頭部へと照準を定めていた。マズルフラッシュが、焚かれた。《明鏡止水》の加護があるとはいえ、それなりの速度で迫り来る銃弾を《緋想》で両断する。累乗された弾片は互いに跳弾し、地に落ち、或いは、床を抉っていった。

銃弾が自分に当たっていないことを確認したらしいセグウェイは、再度、弾幕の如く銃弾を浴びせてくる。俺を殺すまでこうしているのだろうか。実につまらない機械の一生涯(・・・)だ。
それら全てを拝んでやろうと廻転してみせる。同時にこの空虚に手を翳しながら、実体を生み出した。範囲を指定された《境界》は──耐えず射出された銃弾を飲み込んでいく。
全てを喰らい尽くした《境界》は気紛れにその姿を消すと、片腕を掲げるのを合図に、セグウェイの死角に開かれた。センサーの探知範囲外なのか、銃口が自分から逸れることはなかった。


──さぁ、銃弾のお返しだ。戴き物の返礼品だよ。
セグウェイを円形に囲み覆った《境界》は、またも現れてはその飲み込んだ銃弾をご丁寧に吐き出していく。無論、それらに反応することなどは、到底叶わないのだ──。


「……ふぅ」


今度こそ安堵の溜息を吐いてから、銃と大刀契とを収めた。眼前に散らばるセグウェイは、揃いに揃って佇んでいる。向こうに吹いていた黒煙も、風に乗って臭ってきた。
それらを一瞥してから、自分はケータイで武偵校の裏サイトにログインする。装備科、鑑識科、探偵科などの後処理をやってくれそうな学科に、匿名でその旨を送っておいた。始業式早々に申し訳ないね──と労いの言葉を末尾に置いて。そうして「それにしても──」と周囲を見渡す。


──例の女の子とキンジは、何処に行ったのだろうか。


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