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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
誰が為の世界
災厄の前兆
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間になった。そろそろかな……と緩慢に背伸びしていると、ふと扉の向こうから掛けられた控えめな声色が気になったので視線を向ける。


「じゃあ、先に学校に行ってるね。あっくんも気を付けてね」
「うん、ありがとう。行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」


適当に白雪を見送ってから、さて──と意気込んで立ち上がる。手提げ鞄を手にリビングまで向かうと、ちょうどキンジが制服のジャケットを羽織っていた。準備が済んだらしい。


「準備、終わった?」
「あぁ、バッチリだ。彩斗は?」
「うん、こっちも大丈夫」


軽く一言二言くらいを交わして、最後に身なりと持ち物を確認した。視線は流れるように腕時計の文字盤を見ながら告ぐ。


「そろそろ行くよ。バスの時間に間に合わなく──あれっ?」
「……どうした、彩斗」


腕時計を見ながらそう呟いた声は、自分が思っている以上に間抜けな声をしていたことだろう。文字盤が指し示していたのは、7時58分。バスの発車時刻より、1分遅れているのだ。
キンジもそれを察したのだろうか。壁掛け時計を一瞥し、そして、自分の着けている腕時計の文字盤を凝視した。


「……まさかこの一言二言でバスに遅れた、のか?」
「……らしいね。信じたくないけど」


そうして2人の間に、静寂か何かが漂い始めてきた気がした。途端に想起した煩わしさみたいな、そんな空気も、また。


「……まぁ、別にいいか。キンジだって長ったらしい始業式に参加したくないでしょ? だから、敢えて《境界》も使わないことにする。遅刻したらしたで、たまにはゆっくり行こうよ」
「それは……もういいや。そうするか」
「うん、決まりだね」


まさか初日から、のんびりゆったりスローライフ登校をすることになるとは、思っていなかったけれど。
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