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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
序章
二重奏の前奏曲 U
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果であり、彼の者を屠るべき一撃であり、そして何より、《明鏡止水》の恩恵でもあった。
敢えて攻撃の手を弛めて宙吊りにされたのも、相手の油断を誘ったのも、この隙を咎めるための読みだったのだから。

視線は的のような巨漢の額を目掛け、幸便に踏みしめたコンクリート製の天井を踏み台に発勁(はっけい)を叩き込んだ。
いつの間に形勢が逆転したのか──その事実に驚愕に目を見開いた彼の顔が、面白くて堪らない。直後、その巨躯が後ろ向きに傾いた。緩んだ足の感触を振り払い、1回転して着地する。
鉄崩れや地響きとも紛うような余韻が、ただ響いていた。


「……やー、危なかった」


小声で呟き、さて一息吐こうと安堵する。そうした束の間に、3連バーストの銃撃音を《明鏡止水》の聴覚が捉えた。
恐らく横薙ぎに、俺の頭部を狙った射撃。容赦ないね ──と思いながら、クイックドローしたベレッタの銃弾とあちらの銃弾とを、持てるべく動体視力を駆使して相殺する。《明鏡止水》の今だからこそ成し得る芸当で、平生ならばやられていたろう。

1つにも聞こえそうな微細な金属音は、この四面のコンクリートと空気とに融けていった。あとは抉られたコンクリートの悲鳴が洩れたくらいで、塵芥と陽光とが周囲を覆っている。
そんな中に現れた来訪人の姿を、俺は視界に留めた。


「……ご親友のお出ましか。ご苦労さま」





言葉の端々に隠し切れない笑みを浮かべながら、彩斗はキンジに告げた。まさか本当に、こうして再会するとは思っていなかったのだろう。愉楽の見え隠れするあたりが、いかにも彼らしいなとキンジは胸中で笑む。互いに銃口を向け会いながらも、少なからず、この可能性の低い再会を喜んでいた。


「まさか本当に彩斗と手合わせることになるとはな。ここまで来て言うことでもないが……出来ればやり合いたくない気分だ。《明鏡止水》の彩斗とは、特にな。気が乗らない」
「その言葉、そっくり返していい? 普段(・・)のキンジが最上階からここまで来れるとは考え難いんだ。そして、直前の頭部への正確な射撃。あれが出来る今の状態は──HSSに他ならないね。……どうやら思い返せば、筆記試験後に廊下で出会った時から、なっていたみたいだけれども」


お互いにお互いの明白な変化に気が付いていた。キンジは苦笑を、彩斗は微笑をたたえながら、やはり再会の愉楽というものを全面に横溢させている。2人の間に、闘志は殆ど見えなかった。

そうして、HSS──正式名称、ヒステリア・サヴァン・シンドローム。これこそがキンジが持つ特異体質で、遺伝系の精神疾患となる。性的興奮を引き金として発動され、それと同時に脳内のβエンドルフィンが過剰分泌されることにより、常人のおよそ30倍の身体能力を引き
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