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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
序章
二重奏の前奏曲 U
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される。


「……っ、かはっ……!」


やられた。呼吸が、出来ない。いや、今は呼吸が云々よりも他のことだ。受け身すらとれずに壁に打ち付けられたのだから──。
こんな状況下だろうと即座に身の安全を確認する。骨折や内臓損傷は幸いにも無さそうだ。一時は止められた呼吸などは、その後の次第でどうにでも出来る。やるしかない。
身体は朦朧とする意識の中でよろめきながらも立ち上がり、そのままナイフを仕舞ってから、《緋想》を抜いた。

──刹那、知覚の全てが、さながら《緋想》の刀身の如く、明瞭に感じられた。研ぎ澄まされた、視覚、聴覚、嗅覚。一点の汚れすら存在しない、冷酷なほどに澄んだ、明瞭世界。
《緋想》によって創られたこの世界の名を、『明鏡止水』と呼ぶ。……否。《緋想》をトリガーとして、という方が正解か。


「よく立ったな。今までの奴等は、これでブッ倒れた」


言い終えるが速いか、彼はそのまま、僅か数歩の脚力のみで俺の懐へと潜り込む。《明鏡止水》の動体視力が捉えた巨躯は、中国武術の発勁(はっけい)の構えをとった。狙いはまた、鳩尾。今度こそ決める気でいるのだろう。だからこそ──、


──流石に、速い。


そう嘆息した瞬きの刹那、視界は明瞭なスーパースローの世界へと変わっていく。《明鏡止水》だから成し得る、俺だけの世界。止水とも、或いは緩りと流れゆく流水の如く、時は流れていく。

瞬時にベレッタを収めた俺は、逆手で《緋想》を薙ぎつつ、最初の彼のように巨躯のその手を踏み台にして、月面宙返りを叩き込む。しかし、それが反応出来ないワケじゃないだろう。
素性の詳細など分からないが、この男が腐っても武偵校の職員ともなれば、《《普段の》》俺なんかが余裕で勝てるような相手じゃないはずだ。それほどの能力を、彼は有している。


「ハッ、動きが遅せェなぁ。さっき立ったのはマグレか?」


彼は俺を嘲笑いながら、蹴り上げた足を片手で楽々と受け止める。横薙ぎに振るった《緋想》も、手の動きそのものを止められた。しかしその驚くべきは、刀身は彼の瞼の寸前を掠め切っていたことで、防御のタイミングを少しでも間違えれば、紅血に視界を染められていたことだろう。『──相手の刃が近くても、達人から見れば、1ミリでも躱していれば大丈夫なのだ』


「……凄ェのが来たと思ったが、この程度か。残念」


宙吊りの姿勢を余儀なくされた俺は、脳髄のあたりまで登ってきた血液の流れを感じていた。炯々と闘志だけを横溢させて、彼の瞳を睨み付けるふりをした──そうして勝ち誇ったように呟いた巨躯を目掛け、「それはどちらの台詞なんだろうね?」と笑む。

──刹那。轟音を伴って、周囲の塵埃が舞い上がる。それは持てるべく脚力を存分に発揮した成
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