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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
序章
二重奏の前奏曲 U
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てないでさっさと出てこい」


一帯に響き渡ったのは、巨漢の声だった。獰猛性をその裡面に孕んでいて、やはり闘志を横溢させていた。音の反響から考えると、自分と彼との距離は相対して5メートルといったところか。


「……そう、簡単にはいかないか」


そう嘆息して、警戒は怠らないまま、ベレッタとマニアゴナイフを構えながら室内へと飛び出す。その隙に攻撃されうる可能性も予期しておいたが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。
しかし、その別──彼を視界に入れた刹那に、喫緊としか表しようのない空気が、この一帯を覆っていく。
彼氏本人の持つ、闘志と裡面に孕んだ獰猛性。その巨躯が、否が応にも訴えかけてくる威圧感。それらに圧倒されかけていた。

ここで負けるわけにはいかないのだ、と自身を鼓舞する。眼光炯炯と彼を見据えた俺の姿は、彼の瞳にはどう映っているだろう。……それが虚勢に見えていようものなら、無論、彼の誤想だが。


「……ほう」


5メートルの距離を置いて、俺と彼とは対峙している。合間の虚空にはまだ、不可視の壁があるように思えた。
その間に何やら嘆息したような声色を漏らした彼の顔色を、その真意を推し量るために、凝視するともなく凝視してみる。
そうして、気が付いた。この男は、受験生ではないことに。

薄灰色の織り成す四面は、ここに射し込む陽線以外には、周囲を暗々とさせていた。そのせいで、彼の顔付きの詳細に気が付きにくかったのだ。むしろ、他方、あの巨躯に気を取られていた。
1度気が付いてしまうと、面白いほどに鮮明に分かる。頬あたりにある傷跡は、彼の肌の調子を悪しく見せていた。目元や口元に浮かぶ皺まで見澄ますと、あらかたの年齢が予想できる。


「……まさか、成人がここに混じってたとはね」


おおよそ30代後半と思しき巨漢は、その時点で武偵校への受験生ではない。 ともすれば、試験官の1人と考えるのが賢明だろう。陰から受験生の動向を窺っていて、実値にほど近しい評価の裁量を付けるための隠匿と推論すれば、荒唐無稽ではない。
その旨を端的に告げてみせれば、試験官の返答は実に抽象的だった。しかし中立的に見えて、それを僅かに肯定している。


「……言えることは、ただ1つ。『選別』ということだけだ」


やっぱりね──胸中でそう笑んだ一刹那の隙に、巨躯の彼は巨躯ならではの脚力でこちらの懐まで飛び込んでくる。焦燥する暇すら無かった。ただ視界に入ってきたその動きを見れば、そのまま俺の鳩尾に掌底を叩き込もうとしているのだけは、分かる。
しかし、理解(わか)るだけでは意味が無いことは、自分がいちばん知っていた。一瞬の奇襲に反応すら出来なかった俺は、それを直に喰らい──数メートル後ろの壁まで吹き飛ば
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