暗剣忍ばす弑逆の儀 (下)
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所が空となり、白髪の男がいた収容所から八人補填して百人としたのだ。
「……お前に教える義理はないな」
当然だ。当たり前だ。素っ気なく告げる彼に、ディルムッドは歯噛みする。呂布が近づいてくる。こそこそと何をしていると。それをディルムッドは睨んだ。
この男には見覚えがある。確認しているだけだと。事実確認が出来れば女王に報告する、と。呂布はそれに納得はしなかったが、関心は元々なかったのかあっさりと離れた。
「お前の部下を、一人保護してある」
「……何?」
ディルムッドが言うと、男は目を見開いた。そしてそれが意味する事にすぐに彼は気づいたようだった。
「なるほど。……は、随分と思い切ったな、ディルムッド・オディナ」
「……答えろ。何故此処に来た。何をしに来た」
「道理で以前よりもいい面をしている訳だ。お前に何があったのか興味はないが……いいだろう、今のお前になら教えてやる」
男は不敵に笑った。薄皮一枚の下に隠していたものを、ちらりと覗かせるように。
それは決死の戦いに挑む戦士の貌だ。真の戦士は真の戦士を知る。ディルムッドは悟った。そうか、この男は――
「メイヴを殺しに来た。……どうする? 大事な主に報告してもいいぞ」
――メイヴを討ちに潜入してきたのだ。
なんと大胆なのか。しかも、ディルムッドにそれを教えた。どんな神経をしていれば、こうも臆さずに己を信じられる。
「……何故だ? 何故俺にそれを教えた」
「さあ、なんでだと思う? 言っておくが気紛れじゃあないぞ。これでも騎士という人種にはそれなりに慣れていてな。考えている事は顔を見れば分かる。ケルトの騎士は大概が馬鹿正直だからな。それに俺は人を見る目には自信を持っている。それだけだ」
「それだけ、だと……?」
「ああそうさ。今度はお前の番だぞ。ディルムッド・オディナ、お前は……いや、《お前も》そのつもりだな?」
ディルムッドは、それに。
頷いた。男は名乗る。
「エミヤシロウだ」
「……?」
「フン。名も知らん奴と同じ腹は括れまい。くれてやる、お前に先手は譲ろう」
「これは……」
シロウはディルムッドの胸に歪な形の短剣を押し付けた。それを掴んだディルムッドは、視線を落とす。
この宝具はなんだ? 目で問うと、一言。契約を破戒するものだと素っ気なく伝えられ、ディルムッドはシロウに押されて踏鞴を踏む。
その短剣を後ろ手に隠し、ディルムッドは笑みを浮かべた。なんという事だ、と。こんな出来すぎた事があるものなのか、と。余りにも奇遇だった。渡りに船だった。ディルムッドはメイヴの許に歩み寄り、自身の口がシロウの狙いを女王に伝えようとしているのを感じるのすら愉快に感じる。
「女王、報告が」
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