暗剣忍ばす弑逆の儀 (下)
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がしたいんだ。――あんたは、何がしたいんだ。
苦しくて堪らず、胸を掻き毟る。吼えていた。在りし日の記憶、生前。原野に向かって吐き出した熱を、取り戻すように吼えた。
……そうすると、心の中の靄が晴れた。
ディルムッドは静かに火を点す。そうだ。今、勝つべきなのは誰だ。人間か? そうではない、戦いではない。この地に続々と産み出され続ける者達の苦しみを灌ぐことが勝利である。犠牲にした者へ関与する資格はないのだから。
ならば勝つべきはディルムッドか? メイヴか? 違う。騎士道か? サーヴァントの義務か? それも違う。ならば勝つべきモノとはなんだ、真に勝利するとは。……否、勝ち負けではない。尊厳だ。何を以て尊厳を、矜持を示すかだ。そう、示すべきは――《全ての英霊が持つ尊厳》である。
悪である事はいい。サーヴァントとして喚ばれたからには、義務として果たそう。騎士として殉じよう。しかし――《これは駄目だ》。
やっと思い切る事が出来た。全英霊の誇りを貶める事だけは、英霊として断じて赦してはならない事だったのだ。
ディルムッドはそれ以来メイヴの傍に侍り続けた。覚悟は決めた、しかしそれで行動できるほどメイヴの縛りはぬるくない。その心境とは裏腹に、忠実な騎士のように手出しが出来ない。武器が出せない、構えられない、糾弾できない。悔しさに気が触れそうだ。だが霊基がひび割れるほど気を込めて聖杯の縛りに抗おうとする。この心臓を抉り出せば、一撃を繰り出す事は出来るかという所まで来た。
あくる日の事、そんなディルムッドの前に、ある男が現れた。
金色の右目と、琥珀色の左目を持つ白髪の男だ。彼は捕虜として、メイヴの眼前に引き立てられてきた。肌の色が違う、隻眼ではない――その二つの差異はあるが、ディルムッドはその程度で誤魔化される阿呆ではなかった。
呂布がいる。彼は粗野な武人だ。しかしその強さはディルムッドを上回る。――《本来なら》。今の彼になら勝てる、勝てるがそもそも戦えない。何故来たのだと思った。あの男は、カルデアのマスターは、何故こんな所に来てしまったのか。
凝視するディルムッドに男が気づく。貌を顰めた。ディルムッドは女王の傍から離れ、男に近づく。呂布が訝げに目を眇めるも、無視して小さな声で男に問い掛けた。
「何故捕まった、カルデアのマスター。何故こんな所に単身乗り込んできた……!」
敗れて囚われたとは思えなかった。何故なら彼は、自身の主であるフィンを討った男だからだ。仮に敗れたのだとしても、こうも無傷でいる訳がない。なんらかの手傷を負っていて然るべきである。
ディルムッドのただならぬ剣幕に、男は怪訝そうにする。メイヴは鼻唄混じりに召喚の儀式をはじめようとしていた。白髪の男の他にも百人近い捕虜がいたが二つある収容
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