暗剣忍ばす弑逆の儀 (下)
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は唇を噛む。青年を担いで行き、宮殿内の一室に青年を運び込んだ。
ソッと彼を下ろし横たわらせると、青年はそれですぐに意識を取り戻した。よく訓練されている証だ。意識を失ってからの復帰が早く、即座に跳ね起きるでもなく周囲の状況を探っている。目を閉じたまま意識を失っているふりをする彼に、ディルムッドは重苦しく問いを投げた。
「起きているのは分かっている。お前はあの男の……。サーヴァントを従えるマスターの部下か?」
「……」
青年は暫く沈黙していたが、気絶している演技が見破られているのを悟ってはいた。故に往生際悪く演技を続けはせず、起き上がりディルムッドと相対する。
「……人を気絶させて、こんな所に連れてきて。いきなりなんなんだ。訳がわからん。サーヴァント? マスター? なんだそれは。俺にはさっぱりだ」
「俺はディルムッド・オディナだ。誤魔化す必要はないぞ。俺はお前が身に付けたその紅い布に見覚えがある」
「……」
忌々しげに貌を顰め、青年は紅い布を外し懐に隠した。
ディルムッドは自問する。何故こんな問いを投げたのか。意味がない。何かを聞き出したい訳でもないというのに。嘆息してディルムッドは彼に言った。
「……此処にいるといい。暫くは匿ってやれる」
「匿ってどうする? どうせ生け贄にするんなら、生かしていたって意味がないだろ。下らない自己満足の為に、俺を生かしたいだけじゃないか」
「……その通りだ。……一つ聞く。あの男は……我々に勝てるか?」
「勝てる。いや、《絶対に勝つ》。俺のBOSSはお前らみたいな奴に負けるものか」
青年は即答した。ディルムッドはそれに――ひどく安堵する。そうか、勝てるか。勝ってくれるのか。
どだい無理な話だ。勝てるはずがないとディルムッドは思っている。しかしそれを覆せる何かがあると、青年は確信しているようで。それがディルムッドには救いだった。
立ち去ろうとするディルムッドに、青年が言う。
「待て」
「……なんだ?」
「なんだじゃないだろう。あんたは何がしたいんだ」
「……」
「俺を助けたな。理屈にもならん理屈で。明らかに、あの化け物になんの利益もないってのに。――あんたは、何が、したいんだ」
「……」
繰り返し青年は問う。それにディルムッドは答える術を持たず、逃げるようにしてその場を去った。
見張りはつけていない。どのみちこの城には多数のケルト戦士とサーヴァントがいる、逃げられるわけもない。しかしそんなことを計算できる精神的な余裕が彼にはなかった。
何がしたいのか。何をすべきなのか。ぐるぐると考え続ける。青年の眼がディルムッドの脳裡に焼き付き何度も彼に問い掛け続けた。
――あんたは何がしたいんだ。――あんたは何がしたいんだ。――あんたは何
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