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人理を守れ、エミヤさん!
暗剣忍ばす弑逆の儀 (下)
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あった。この特異点で、主と共に戦いを挑んだ軍勢が、その布を身に付けていたのだ。
 男が女王を糺す。何をするつもりだ、なぜ俺達を殺す! と。女王は笑った。活きがいいわね……強い仔を産めそうよ、と。糾弾の声などまるで聞こえた素振りもない。事実聞こえていないのだ。女王は怒りの余り理性が焼ききれ、狂奔してしまっている。途方もないその赫怒を癒せるとしたら、彼女が最も執着した最愛の戦士しかいないだろう。
 その戦士の行方は杳として知れない。何処で眠っているのか、知っているのは女王だけだ。

 咄嗟だった。これまで口を噤み、木偶に徹していたのを、この時になって漸く口を開いた。

「――女王メイヴ。進言があります」
「あら? ああ、ディルムッド。案山子になっていたのに漸く口を開いてくれたわね。私、嬉しいわよ?」

 フィオナ騎士団の一番槍、輝く貌ディルムッド・オディナ。彼が口を開き、声を発すると、くるりと振り向いたメイヴは心底嬉しそうに表情を綻ばせた。
 メイヴはディルムッドを高く評価していた。妬みを知らず、高潔な騎士として高い実力を持つ彼は、メイヴにとって非常に好ましい好漢なのだ。フィンの下にいたのが勿体ないと常々思っており、彼が一度帰還して以来ずっと側に置いていた。
 しかしこれまでの間、声を失ったかのように淡々と命令をこなし、決して自分からは何も言わなかった。メイヴはそれが非常に悲しかったのだ。ディルムッドは声が良く、体が良く、貌が良く、内面も良い。一晩相手してあげてもいいと本気で思っていたから。

 清楚でありながら淫卑、男であるなら身体の芯から蕩けそうな微笑みを向けられ、しかし彼はあくまで平静を保ち進言する。

「人間を生け贄にサーヴァントの霊基を呼び込み『構成』する素材とする。それを実行するにしても、素材は玉石混淆。玉と石くれをいっしょくたに扱うのは些か勿体ない。ここは活きのよいものは後に回し、そうでないものを優先して使うべきかと」
「ん? んぅ……そうね。変わんないと思うけど……確かに私の戦士達の質が上がるのだとしたら、試してみる価値はあるかしら? それに折角ディルムッドが考えてくれたんだし、やってみるのも悪くはないわね」
「……では、この者を預かります」

 ディルムッドは紅い布を身に付けた青年に当て身を食らわせ、失神させると肩に担いで玉座の間を後にした。

 ――俺は何をしている?

 罪悪感に貌を顰める。やっている事は命の選別だ。あの男の兵だから助けた。他の民は見殺しにして。何故あの男の兵だから助けたのか……。
 恩を売るためか? バカな、そんな事をする意味はない。ではなんだ? ディルムッドは――あの男に期待しているのか?
 何をするべきなのか、何がしたいのか見えているはずなのに見えて来ない。ディルムッド
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