暁 〜小説投稿サイト〜
人理を守れ、エミヤさん!
業火の中に
[5/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
リを言った。勿論考えていない。
 救いを求めるようにスカサハに視線を向けるが、含み笑いをされるだけで答えがなかった。やむをえず、男はスカサハの存在をヒントにする。
 スカサハは北欧の女神に名を列する。北欧といえば有名な存在があった。

「『ワルキューレの角笛作戦』だ。ワルキューレとはお前達の事だぞ。行き場のない者達をこの楽園に導く大役だ。実に相応しい。惜しむらくは、お前達は実際の戦乙女のように見目麗しい乙女ではない事だな」
「むさ苦しいワルキューレもいたもんですな……。こいつはいい、オレらみたいなモンに導かれたんじゃあ死んでも死にきれませんわ。楽園に辿り着いてシータ嬢やオキタ嬢、ネロちゃんを一目見てやろうという気にもなるでしょうな」
「――ふむ。マクドネル、私の名が挙がっていないのは何故だ?」
「ッッッ!! そ、そいつぁモチロン! 教官殿は楽園の美女ではなく死の国の女王ですから……所謂ジャンル違い、いっしょくたにするのは双方に失礼ってもんでしょぉ!」
「なるほど。帰ったらお主は兵士から戦士に転向させてやろう。軽口だけは見込みがある」

 顔面を蒼白にするマクドネルに、周囲の笑い声が大きくなった。男もまた一緒になって笑っているが、心底同情している。難儀な奴に自分から目を付けられにいくとは、まったく他人とは思えない奴だ。
 男は作戦の開始を告げた。マザーベースの南門が開門される。山と積んだ背嚢の元に向かい、男は一列に並んで通りすぎていく兵士達に一人ずつ背嚢とライフルを渡し、一言ずつ声をかけた。
 風邪を引くなよ、妙な女に引っ掛かるなよ、そんなつまらない言葉に兵士達は薄く笑みを浮かべながら城門から発っていく。自身らに課せられた任務の重さは先刻承知、しかし有り余る使命感が彼らにはあった。自分達がこの大陸の人々を、一人でも多くBOSSの下へ連れていく。そうする事が救済に繋がるのだと固く信じていた。

 ――人間は、一人では何もできない。

 故に人海戦術で、この広すぎるほど広い大陸に網を投げる。必ず引っ掛かるだろう。彼らが城門から発って行くのを見送って、男はぼんやりと呟いた。
 それは、数分前までの覇気漲る烈士とは思えない、穏やかな素顔だった。

「……忙しくなるな」
「もう充分に忙しいが?」

 スカサハの反駁に、男は肩を竦める。

「もっと忙しくなるという事だ。まだまだ仕事は尽きない、覚悟しておけよ」
「……」

 槍の極みに至った神域の達人は、その宣告に眩暈を起こしたようだった。
 そろそろ儂、死ぬぞ……そう呟くのに、あのスカサハを殺した男として俺も英霊になれるかもなと男は嘯いた。冗談ではなく本気で仕事が増えると確信している様子に、スカサハも乾いた笑い声を溢すしかない。

「お主、『どえす』じゃろう……
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ