春の座席は甘いので、朝採り&生食がオススメできる話
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―!?)
感じ取った弾力は、想像以上のものであった。
やはり野球部、しかもピッチャーの下半身は一味違う。あやうく声が出るところだった。顔が熱くなる。
(まさか鼻血が出たりしないだろうな……)
この近さを生かして彼に話しかけたい衝動にも駆られたが、鼻血が心配すぎた。
この距離で出血すると彼の学ランを汚してしまう。そうなったら一発アウトだ。彼の前に立つ資格を未来永劫失うだろう。
まずは鼻粘膜に意識を集中し、出血がないように祈った。
そして、どうやら大丈夫そうだと思ったところで――。
「それ、何?」
先に彼のほうから、質問が投げかけられた。彼の指先は、総一郎が手に持っていた三百ページ以上に及ぶ想定問答集へと向いている。
総一郎の体は、「待ってました」とばかりに武者震いを起こした。
この想定問答集、初めて彼と会話を交わした日に、人生初の徹夜をして仕上げたものである。これさえあれば、彼からどんな質問が飛んできても慌てずに対応できる。
総一郎は絶対の自信を持っていた。実際、想定問答集の中には今の状況を想定した質問もあったはずである。
だが、しかし。
「ああ、これはな――――っ!?」
満を持して回答しようとしたのだが、思わぬ事態が発生した。
(冊子が開けない……だと……?)
総一郎は一転、絶望の淵へと突き落とされることになった。
そう。せっかく用意した想定問答集が、車内の混雑により開けないのである。
今日はいつもよりも車内が混んでおり、前や左右のスペースに遊びがなさすぎる。このままでは、腕を動かして冊子を開くことは不可能。
とはいえ、肘を張って隣の人を押しのけて冊子を開くのも、後ろを人を無理に押しやって冊子を開くのも、前に腕を伸ばして彼の頭上で冊子を開くのもだめだ。マナー違反であるし無礼すぎる。
そんなことをして、ただでさえ怪しい彼からの評価が下がってしまっては元も子もない。
(模範解答の内容を覚えておくべきだった)
冊子を手に持つ前提でいたため、内容の暗記の時間までは取っていなかった。書いたときの記憶をたどろうにも、人生初の徹夜で朦朧とした状態で作成したので、何を書いていたのかまでは思い出せない。
これは完全な誤算だった。
総一郎としては、「ああ、これはな……」と言って自然体で冊子を開き、該当のページを確認して答えるつもりだった。その構想がもろくも崩壊した。
(まずい)
総一郎は想定外の事態に混乱した。
だが、彼の目が驚きで見開かれたことを確認すると、すぐに体中を落ちつけにかかった。
(顔に出してはだめだ……せっかく質問してくれた彼を不安にさせてしまう。ここは平静を装わなければならない)
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