春の座席は甘いので、朝採り&生食がオススメできる話
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さつ以外での二度目の会話という気恥ずかしさが隠しきれなくなった。隼人は、また照れ笑いしながら頭を掻いてしまった。
もうちょっと話が広がれば――と隼人はさらなる展開も期待していたが、彼はここで視線を外してきた。隼人の後ろの窓から、遠くを見ているようだった。
そして、そのまま黙り込んでしまった。目もつぶっている。
(あれ? もしかして。毎日一生懸命レポートやってて眠かったのか?)
ひもで綴じられた手作り冊子は、ここ一週間ほどいつも手に持っていたが、表紙の色が毎回違っていた。なので、毎日一冊提出をしていた可能性がある。
もしそうであれば、相当疲労が溜まっているのではないだろうか。質問直後に突然驚いていたのは、眠すぎて何か幻覚か幻聴でも発生したためか。
(やっぱり俺、空気読めてなかったかな)
まだ時期が早すぎた。あいさつ以外で話しかけるのは、彼のレポート提出が一段落ついてからのほうがよかったかもしれない。
隼人がそう反省していたら、いつも降りる駅に着いてしまった。
「じゃあな。大変だろうけど頑張れよ」
隼人はもう一度笑顔で、彼の目を見て、あいさつをした。
すると。
閉じられていた彼の目が、スッと開いた。
「……ああ。ありがとう」
彼もこちらを見て、少し笑った。
その笑顔は今までの怜悧百パーセントなものとは違っており、隼人はドキッとした。
駅の改札を出ると、隼人は歩きながら思う。
(眠気を我慢してこっちに付き合ってくれてたんだなあ。さすが生徒会。優しいな……あ)
なるほど、と隼人は思った。
彼の最後の笑顔は、優しかったのだ。理知的は理知的なのだが、いつもより柔らかく、何かを慈しむような、そんな要素もある笑顔だった。
(あの顔は反則だな)
あれはまさしく――。
(天使……!)
だが隼人は、彼からありがたく頂戴した幸福感を、すぐにしまい込んだ。
(あいつの気持ちに甘えちゃダメだ)
俺ももうちょっと相手を気遣えるようにならないとな、と気持ちを入れ直したところで、校門に到着した。
隼人は、空を見上げた。
(この前あいつのハンドタオル見たからかな? なんか雲がチーバくんの形に見える。やべえ)
苦笑いしながら一つ伸びをすると、校門をくぐった。
* * *
この日はなぜか、いつも乗る電車が非常に混んでいた。
いつもどおり彼の前に立った総一郎だったが、背後の乗客に押し込まれ、彼との距離がいつにも増して近くなった。前に倒れて彼に覆い被さらないよう、左足をわずかに前に出した。
途中、電車が大きく揺れた。
左膝が、彼の鍛えられた太ももの内側をかすめる。
(―
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