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第百二十話 エル・ファシル星域会戦リターンズその2です。
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艦隊でしのぎ切れたのはどうしてなのかとフィオーナは考えていたが、その要因がここにあった。ヤン艦隊は移動しているのだ。それも小刻みに、場所を変えて。
 砲撃までの時間はどうしてもコンマ何秒もの誤差がある。それはどんなに精密なコンピューターによるものであってもそうなのだ。だから砲撃は時に外れることがある。コンマ何秒の時間を最大限に利用するのがヤン艦隊の持ち味なのだ。
 
 ならば――。

「全艦隊、これから砲撃の指示を私自身が下します。」

 クルーたちが一斉に彼女を見た。全軍の総司令官が砲撃に関して直接指示をすることなど前代未聞である。だが、フィオーナは一度それを経験している。半ばリューネブルクが強引に彼女に艦隊の指揮権を引き継がせたヴァンフリート星域会戦である。

「砲撃時間及び地点を私の指示通りに順守してください!!」

 フィオーナはある結論に至っていた。
 艦隊運動でヤン艦隊に対抗するには限界がある。
 ヤン・ウェンリーに対抗するには、ヤン・ウェンリーの艦隊運動そのものを利用すればよいのだ、と。

* * * * *
 ヤン・ウェンリーはヒューベリオン艦橋で戦況を見守っていた。基本的な指示を下し、あとは戦局を見定め、適宜指示をするのがヤンだった。だが、戦闘を開始してほどなく、ヤンは眉をひそめることとなった。敵の砲撃がおかしいのである。

「敵の砲撃が・・・・艦隊左翼に!!」
「続いて、敵の砲撃がまた左翼に!!」
「また左翼!!」
「左翼に砲撃!!」
「左翼です!!」

 正面に相対した場合、まずは全面衝突が基本である。だが、敵の艦隊は損害が倍加するのにも構わず、こちらの左翼にのみ集中砲火を浴びせてきたのである。逆に右翼及び中央は無傷のままなのだ。
 いかに精強なヤン艦隊と言えども、全軍の3分の1にすぎない左翼に3倍以上の砲撃を浴びせられれば無傷では済まない。

「どういうことだと思う?」

 ヤンはムライ中将を振り返った。

「結論から申し上げますと、敵は一点突破を図ってきているのではないでしょうか。」
「一点突破、か。」
「敵はこちらの艦隊運動と砲撃に劣勢です。このまま推移していけば倒れるのはあちらが先でしょう。ですから活路を見出すために一点集中突破を図ろうとしているのではないでしょうか。」

 ムライ中将の発言は「常識的な」ものである。これは本人もよく承知していることであって、かつ、ヤンもまたそれを求めているのだ。それにしては砲撃の集中量が尋常ではない。一点突破を図る前にすりつぶされてはならないと、他の戦線についても砲撃をかけるのがセオリーなのだし、狙いを悟られないようにする手当ても行わなくてはならない。
 だが、敵は損害が倍加するにもかかわらず、それをまるっきり無視しているの
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