7月
第76話『七夕』
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「」ツーン
結月が無反応になったので、晴登はそれ以上の言及を諦めた。折れてあげる、と言ってはくれたからには、その通りにはしてくれるだろう。このままつっかかっていては、お互いに願い事を書けないまま、この時間が終わってしまうのだ。いや、終わってくれた方が嬉しいのだけれど…。
「書いとかないといけなそうな雰囲気だしなぁ…。何て書こうかな」
自慢じゃないが、晴登にはこれと言って願いは無い。だからこの時間は苦痛でしかないのだ。
しかし、逆に嘘を書くことはプライドが許さない。お陰で一向にペンは進まなかった。
「アイツらは何書いてんだろ…」
晴登は顔を上げて、席の離れている莉奈や大地、さらに伸太郎や狐太郎も見た。彼らも遠目からは悩んでいるように見える。
やはり、みんなには夢や願いはまだ無いのか。それとも、有るがどう表現するか迷っているのか。もちろん、そんな人の考えを他人が容易に推し量れるはずもない。
「願い、かぁ……」
「困ってるみたいだね」
「うぉっ、先生!?」
「しーっ、静かに」
晴登の呟きに呼応するかのような突然の山本の登場に、思わず声を上げてしまった晴登は慌てて口を塞ぐ。すると山本は微笑みながら、「アドバイスをしよう」と言った。
「夢や願いは決して大きくなくてもいい。何かになりたい、美味しいものを食べたい、好きな人と一緒に居たい・・・そういうの全て、ささやかなことでも"願い"と言えるんだ」
「あ…」
晴登は思わず振り返りそうになりながらも、山本の話を聞き続ける。
「君は本当に願いが無いのかい? ちょっとしたことでもいい。これがしたいと、ふと思ったことをここに書いてみるんだ」
そう言って、山本は晴登の元を離れた。
相変わらず不思議な先生だ。彼の話を聞いていると、どこか別の世界に引き込まれそうな気分になる。
だが、彼の言うことは何となく理解できた。
「俺のしたいこと・・・そうだな」
晴登はシャーペンを手に取った。
*
HRの時間も終わり、下校を知らせるチャイムが鳴った。生徒は先生に挨拶を交わしながら教室を出ていく。晴登もその一人だ。
「俺らが書いた短冊は校門前の笹に吊るされるんだってな」
「うわぁ…ヤダなぁ…」
「ちなみに晴登は何て書いたんだ?」
「俺の口からは言いたくないよ」
廊下を歩きながら、「はぁ」と晴登はため息をついた。無論、この学校のよくわからない風習のせいである。隣を歩く大地はあまり気にしていない様子だが、違和感くらい持って欲しいところだ。
「あーいたいた! 置いてかないでよハルトー!」
「お、結月・・・と莉奈」
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