黎明、死闘、そして邂逅
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・フーリンの意は決した。視ただけで倒れた剣士など何時でも殺せる。反応すら出来なかったマスターなど何時でも殺せる。障害となるのは授かりの英雄のみ。ならばそれを屠るのを優先する、と。
膨大な魔力を燃焼させてアルジュナが疾走した。炎の魔力を収束し、それをジェット噴射させて高速で駆けながら蒼矢を次々と四方八方に射撃する。彼の射手としての千里眼は、彼の眼を以てすら霞んで見える狂王に直撃する軌道をなぞるも、その悉くが回避されるか魔槍に掻き消された。
――見えない。
霊基の影響で向上した動体視力ですら、全くその攻防が見えない。ジャックは愕然とした。
アルジュナの動きは辛うじて追える、しかし狂王の姿は何処にも見えない。虚空に放たれる蒼矢、虚空で打ち消される矢。
「ッ――! シータぁ! 春を連れて下がれッ!」
遠くで神弓を構え、しかし呆然としている小柄な少女に命令する。彼女が慌てて春に駆け寄り、抱えて逃げていく様を見ようともせず、ジャックは必死に眼を凝らした。
それでも見えない。まるで見えない。ジャックは諦めてアルジュナの動きを追った。そちらはまだなんとか見える。放たれる矢の軌道とタイミング、それと己の知るクー・フーリンの動きを照らし合わせ、擦り合わせていく。その間にもアルジュナは冷静さを保てる余裕を持ちながら、しかし刻一刻と増えていく傷に秀麗な美貌を顰めている。
「中々……ッ!」
生前ですら久しく経験しなかった苦戦に、アルジュナは呻きながらも応戦する。
奮戦する彼に、しかし向けられたのは無機質な侮蔑だった。
「意外と粘りやがるな、小僧」
「この私を小僧と呼ぶかッ!」
「小僧だろう。何もかもを他者に与えられ、他者の敷いた道を、他者に望まれたまま進んだガキ。それがテメェの銘だ」
「――」
「授かりの英雄だったか。授けられてばかりで、何も己で決められなかった小僧の分際だろう? そんな程度のガキがオレの前に立つな。大人しく死ね、テメェの手で勝ち取ったものなど何もねぇだろうが」
挑発だった。
安い挑発だった。
だが、それは。
アルジュナの矜持を深く抉る言霊であった。
「狗風情が、よくぞほざいたッ!!」
激昂する。激怒する。しかしその弓術に翳りは生まれない。その程度で我を見失う『授かりの英雄』ではなかった。
逆に挑発を返しながらもアルジュナの弓捌きは苛烈さを増す。神弓『炎神の咆哮』が担い手に更なる炎の力を齎した。唸りを上げて速射される蒼矢の煌めきが大地を砕いていく。次第に彼の意識は狂王のみに集束されていき――それを留める声が奔る。
「アルジュナ、欲張るな! そのまま捉えておけ!」
「!」
契約を結んだばかりのマスターである。神代でも頂上に位置する戦いに
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