黎明、死闘、そして邂逅
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ルジュナへ、鉄心の男が嫌みを投げるも、とうの本人は悪びれもせず。寧ろ若干の高揚に声音を弾ませて、その身へ膨大な魔力を纏った。
炎の性質を持つ魔力放出。その片鱗のみで、ジャックは思う。お前を仲間に出来たんなら、どれほどの出費であろうと安いものだと。
勝機が見えた。アルジュナがいるなら、クー・フーリンにだって勝てる。問題は逃げられてしまわないかだ。不利な戦闘からの離脱もまた、この大英雄は他の追随を許さない巧みさがある。
純粋な戦闘能力、ルーン魔術による応用力、本人のクレバーな戦闘論理、そして一回の戦闘に拘泥せずに撤退も行える精神性……敵に回して改めて思い知る。戦場王と渾名される戦巧者の厄介さを。
だが一先ずこの場での敗北はない。ジャックは慢心ではなく、冷徹な戦術眼で洞察してそう判断した。
――だが。
「悪いな」
聖杯により変質した、狂王クー・フーリンは、彼らにほんの僅かに謝罪した。
いや違う。ジャック達に向けたものではない。それは彼が共に並び立つ女王へ向けたものだった。
ジャックは漸く気づく。アルジュナもまた。分からないのはその手の感覚がない沖田のみ。ジャックは戦慄して総毛立っていて。異常事態を察知してアルジュナは瞬時に蒼矢を放った。
「こいつは勘だが、今ここでコイツらを逃したら後々邪魔になりそうだ。後腐れなく此処で殺しておく」
だが、アルジュナの矢が――ルーンの防壁に阻まれた。
いつの間にルーンを。いや、それよりも、まだ手持ちのルーンがあるのか……!?
クー・フーリンのルーン魔術が発動していたのを、瀬戸際までジャックやアルジュナにも悟らせない神業めいた魔術行使。それもそのはず、彼は自身の体にこそルーンを張り付け、彼の体が発する高密度の魔力を隠蔽していたのだ。
ジャックとアルジュナが契約を交わすのを黙って見ていたのは、彼が自身の切り札を使用する間を稼いでいただけなのである。アルジュナは神弓に更なる魔力を注ぎ込んで防壁を破壊しようとするも、小さく舌打ちして後退した。もはや間に合わないと悟ったのだ。
春、下がれ! ジャックの鋭い指示に、沖田は応じて一気に飛び退いた。ジャック自身も下がっている。
凶獣は呟いた。
「今のオレが使う最初のそれは、自分の目で見たいと言ってやがったが……それは叶わねぇ。出し惜しんで、後で悔やむ事ほど間抜けなものもねぇからな――さっくり殺して戻ってやる、それで勘弁しろ」
ボ、っご――と。クー・フーリンの全身の関節が伸びる。被っていたフードが消え、黒ずんだ蒼髪がゆらりと逆立っていく。
ズッ、ぎュ――と。全身の筋肉が膨張していく。急激な肉体の増設に、体そのものが堪えきれないように裂け、そこから鮮血が溢れ……発火した。凄まじく高温の血が、
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