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【ユア・ブラッド・マイン】〜凍てついた夏の記憶〜
雪庇の毛布
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が、突っ込んできた男の拳をすりぬけて鳩尾を突き刺す。
 恐らく彼の纏うオーラはそのまま「最強の自分」という歪む世界がそうさせる身体強化系の術だったのだろう。だが天馬にとってはハエが止まる速度だったのか、鳩尾を抑えて蹲る彼をよそに自分の拳を眺めている。

「これ、術使わなくても頑張れば勝てたか?」
「当然だ。お主もそこまでは到達しておる」
「てめ、マグレ当たりで調子に乗るなよ!?気が変わった、俺のバブルでお前ら全員袋叩きにしてやる……」
「無駄無駄ぁ♪」

 周囲のシャボンが一斉に殺到するか否かの瞬間、既に美音が発動させた『浄道灼土(ファロヴァイア)』が周囲を奔り、シャボンが一瞬で焼け散った。

「あれからだいぶ練習したからね〜」
「コントロールはもうバッチシよ!」

 だが、炎は同時に自分たちの視界も塞ぐ。シャボンが消えた先に待っていたのは分裂した男子生徒と、流体の鎧と武器を持った女子生徒の突撃だった。

「アンタの噂は聞いたわよ、氷室エイジッ!!魔女がいないと何もできないんでしょ!だったら魔女から潰せば――ッ!!」
「戌亥家のご息女さまに荒事なんて出来ねぇよなぁ!?」

 流体の刃は形を変えて瞬時に伸び、エデンに一直線に向かう。いくら魔鉄の加護があったとしても、直撃すれば出血は免れない強力な刺突――しかし、彼女は根本的に戦略を間違えていた。

「『守護氷華(ハーデンベルギア)』」

 瞬間、エイジの足場から大量に噴き出した冷気と氷が流体の女子生徒と分裂した男子生徒全員を拘束した。

「エデンに刃を向けるのは許さない。エデンは僕が守る」

 エデンの守護、それだけはエイジが何を置いても優先する事項。彼女はエデンではなくエイジを先に狙うべきだったことを悟り、そして流体という自分の歪む世界が完全に封じられていることに驚愕する。氷さえ流体に変える筈の自分の力が、何故動かないのか。

「融けろ!融けなさいよ!な、なんで……何で流れないのよッ!!」
「啓蒙活動だ。教えてやろう」

 その時点でやっと本から目を離した悟がゆっくりと歩き、身動きできない彼女に目線を合わせる。

「相反する能力の性質は、深度の差で優先度が決まる。そして同ランクの場合は発動させる術者の精神力が勝敗を分ける。つまりだな」

 いったん間をおいて、悟は鼻で笑いながら告げる。

「お前が鍋の熱湯だと仮定すると、エイジは北極だ。お前の深度で融かせる訳ねぇだろ」

 その日以降、彼らが絡んでくることは二度となかった。
 
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