第三章
[8]前話
「有り難い、何処に行ったのかと思っていましたが」
「東の廃寺の門のところで拾いましたが」
「そうだったのですか」
「何故あそこに。しかも」
妖狐達のことも話した、すると禅師は王に笑ったまま話した。
「弟子達でして」
「狐達もですか」
「はい、縁があって弟子にしております」
「妖狐達が弟子ですか」
「そうなのです、これが」
「面妖な、しかしあの狐達は悪者には思えない」
それでとだ、こう言ったのだった。
「では一体」
「そこは言われないで下さい」
「そうですか」
「はい、是非」
「それでは」
王は学問を修めているだけあってここは言わなかった、それでだった。
禅師のところを去ろうとしたがその瞬間にだった、王は彼の背中に眩いばかりの後光を見た。そしてその他にも。
仏の姿を見た、そこで王は察した。禅師が何者であるのかを。それで思わず言葉に出そうだったが。
王は今の禅師の言わないでくれという言葉を思い出してそれで言葉を止めた、そのうえで彼に対して言った。
「では私はこれで」
「また飲みましょう」
禅師は態度を変えず王に答えた、いつもの禅師である。
「そして何かとお話しましょう」
「はい、しかし」
「しかし?」
「前の様に飲めるか不安です」
「いやいや、私は私なので」
飄々としてそれでいて徳のある顔でだ、禅師は王に言葉を返した。
「ですから」
「気遣いはですか」
「無用です、では」
「またですね」
「飲みましょう」
こう話してだ、そのうえでだった。
王は今は禅師と別れた、以後も機会があると禅師と飲んで学問のことを語り合ったがその都度感服するばかりだった。
王は後に禅師が実は仏、それも羅漢が転生した姿であることを書き残した。そして禅師が密かに魔の存在を調伏していたことも。
南宋の済公は実在人物でありその逸話は中国に多く残っている、一見とんでもない破戒僧であるがその実は羅漢の生まれ変わりで魔や悪人達を退治し世の為人の為に働いていた。この話はそのうちの一つである。このことから考えると人は外見やちょっとした行いを見て聞いただけでは判断出来ないということであろう。実は高徳ということがあるので。
済公 完
2018・10・7
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