第一章
[2]次話
済公
宋が金に攻められ南に逃れた後の話である。抗州に道済禅師という僧侶がいた。禅師の地位にあることからわかる通りかなりの高僧である湖隠とも方円叟ともいった。俗世にいた時の姓は李といい李文和という都尉の子孫であり師匠は霊隠寺の仏海禅師であった。
とかく破天荒な人物で常識に囚われない行動をしており酒も肉も口にしていた、外見はまるで物乞いの様であり髪の毛は剃らずぼさぼさであり僧衣も一体どれだけ着ているのかわからない位にぼろぼろになっている。持っている団扇は破れておりいつも酔っていて変わったことばかり言って変人として知られていた。
そんな彼だが不思議と人からは好かれ弟子達にも慕われていた、ある堅物の儒者が彼のことで弟子達にとやかく言うと彼等は口々に言った。
「いやいや、あれでです」
「我が師はちゃんと御仏の教えを弁えておられます」
「学識も素晴らしく」
「あれだけ立派な方はおられません」
「そう言うがな」
儒者の名を王健生といった、厳めしい顔立ちに濃い髭そして太い眉が雄々しい。背筋は伸びていて身なりもしっかりとしている。杭州では学究とさえ言われ儒学だけでなく古今の学問に通じていることで知られている。
そしてその学問の深さで知られているがその彼が言うのだ。
「噂を聞いてその行いを見ると」
「身なりもですな」
「そちらも」
「左様、あれでまともな御仁ましてや僧侶とは」
到底というのだ。
「思えぬが」
「なら一度お話をされてみればいいです」
「我が師と」
禅師の弟子達は王に至って落ち着いて述べるばかりだった。
「そうすればおわかりになります」
「我が師のことが」
「うむ、貴殿達がそう言うのならな」
それならとだ、王も頷いた。そして実際にだった。
彼は意を決して彼を探し丁度街の居酒屋に朝早くから入って茹でた肉を肴に飲んだくれている彼の前に出た、そこから同席を願い出ると禅師は笑って答えた。
「どうぞ」
「それでは」
王も頷いてだ、そのうえで彼に自分が知る仏教のことを色々と尋ねた。するとどの質問にも即座にかつ淀みなく明解な返事が来た。
その返事がどれも素晴らしくだ、王は内心驚いた。禅師はかなり酔っていたが返事は誤りもなかった。
仏教以外の学問、儒学に道教他のかつて諸子百家と呼ばれていた学問の質問もしたが全てだった。禅師の返事は明確で。
王は驚くしかなかった、それで言うのだった。
「まさかそこまで学問を究められているとは」
「ははは、たまたま知っているだけで」
「仏門だけでなくそこまでご存知とは」
「ですからたまたまですぞ」
禅師は王に笑ってこう言うだけだった。もう夜になっていたがあらゆる質問に間違えたところはなかったからだ。
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