第六章
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「どうか」
「・・・・・・権六殿」
市は柴田に静かな声で述べた。
「私のお考えはおわかりですね」
「それは」
「私はあの方が好きではありませぬ」
またこう言うのだった。
「どうしても。そして」
「時が来たとですね」
「思っています、思えば待っていました」
静かにだ、市は柴田に述べた。
「この時が来るのを」
「では」
「はい、権六殿には申し訳ありませんが」
「お心は」
「妻と呼んで欲しいと言いましたが」
それでもというのだ。
「やはりです」
「あの方にですね」
「私の心はありました、ですから」
「ここで」
「娘達は逃がします」
彼女達はというのだ。
「既に人をつけてです」
「猿と話をさせていますか」
「はい、そして私は」
「ここで、ですね」
「火を点けますね」
「はい」
その通りだとだ、柴田は市に答えた。
「これより」
「ではです」
「これからですか」
「この世を去ります、猿夜叉殿そして兄上の様に」
夫、そして兄と同じくというのだ。
「燃え盛る炎の中に消えましょう」
「そうされますか」
「これより」
「わかり申した」
柴田は市に畏まって応えた、そのうえで彼女に述べた。
「これより城に火を点けます」
「そうしてですね」
「お供します、そして必ずや」
最期の最後まで臣だった、柴田はその立場から平伏して言うのだった。
「殿、そして浅井殿のところに」
「案内してくれますか」
「必ずや」
「有り難うございます、では」
「はい、最期を見届けさせて頂きます」
こう言ってだった、柴田は城に火を点けさせた、市の娘達は既に城を出ていて生きようとする者は既におらず心に残りはなかった。
市は燃え盛る城の中で喉に自ら小刀を突き刺して世を去った、その時に長政の名を小さい声で呼んだ。
柴田はその後で腹を切って供となった、二人の骸は炎の中に消えた。
市の心はどうだったのか、それを知る者はもういない。しかしその人生は人に多くのものを思わせる。戦国の世に生まれ散っていった彼女のことは。この物語もまたそうした物語であることを書いて終わりとしたい。
最後の恋 完
2018・12・18
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