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戦国異伝供書
第三十八話 意識する相手その九

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「ですが」
「それでもですか」
「あの城だけはです」
 その十万の兵でもというのだ。
「攻め落とせないので」
「だからですが」
「そこまでは。ですから」
「この度のことで、ですか」
「心より感謝致します」
 こう言うのだった。
「まことに」
「そうですか」
「はい、ですから」
 定実は頭を深く頭を垂れて礼を述べた。
「この上杉この度のことは生涯忘れませぬ」
「そこまで言って頂けますか」
「はい、ですから公方様にもです」
 都にいるこの者にもというのだ。
「文を送らせて頂きます」
「わたくしのこの度のことをですか」
「お話しておけねばならないので」
「公方様にとは」
「当然のことです」
こう景虎に話した。
「ですから」
「このことはですか」
「特にです」
 感謝せずともというのだ。
「構いません」
「左様ですか」
「はい、そして」
「そしてとは」
「今思ったことですが」
 それはというと。
「長尾殿は一度です」
「一度ですか」
「はい、上洛されては」
 景虎にこのことも進めた。
「そうされてはどうでしょうか」
「上洛ですか」
「あくまでそれが出来る状況ならですが」
 それならというのだ。
「上洛されてです」
「そのうえで、ですか」
「公方様にお目通りをされて」
 そのうえでというのだ。
「お話をされては」
「そのことは」
 どうかとだ、景虎は定実に神妙な顔になって答えた。
「これまでは考えたことは」
「なかったですか」
「はい、一度もです」
「そうでしたか」
「都で公方様をお守りし」
 そしてというのだ。
「天下の政をお助することは考えていましたが」
「それでもですか」
「上洛は」
「ですが何時かはですね」
「はい、都においてです」
 まさにそこでというのだ。
「公方様をお助けしようと考えています」
「ならです」
「その前にですか」
「一度上洛されて」
 そのうえでというのだ。
「公方様に会われるといいです」
「そうですか」
「ただ。また申し上げますが」
「それが出来ればですね」
「その時にです」
 今すぐでなくというのだ。
「されればいいです」
「そうですか」
「確かに今は戦国の世で」
「わたくしもですね」
「上野に兵を出して頂いて言うのも何ですが」
 それでもと言うのだった。
「それが現実ですね」
「無理はされるなと」
「私が申し上げているのはこのことです」
 そうなるというのだ。
「ですから」
「ここは、ですか」
「無理をされず」
 そうしてというのだ。
「頃合いをご覧下さい」
「それでは」
 景虎は定実の言葉に頷いた、そして直江達にこの上洛のことを話すと直江がまずこう言った。
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