禁句に気をつけろジャックさん!
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記憶してやる気にもなる。そうでなければ、その馬に乗った瞬間に叩き潰すつもりだったが……それでは余りに無粋だろう」
何気に死ぬところだったわけか。全く気づいていなかった。王という人種は、やはり独特な感性を持っているらしい。
観念した風を装いながら名乗る。本当の名ではないが、他に返せるものもない。
「ジャックだ。トランプのダイヤが由来らしい」
「ほう。ますます奇縁だ。因果なものだな、その名が私に土をつけたのか」
「やり辛いのは俺も同じだ」
どうしようかとまだ考えている。口の廻るままに囀ずる裏で、矛を交わさずに逃げる算段を立てながら、逃げる好機を窺い続けた。
ペンテシレイアは僅かに機嫌を害したようだ。何やら不穏な殺気が漂い始めている。さて、何が気に入らなかったのやら。
「……やり辛いだと?」
「ああ……何せ彼のペンテシレイア女王が相手だ。その正面にこうして存在している、それだけで恐ろしくて堪らない。距離が遠ければまだ強がれたが……出来れば戦いたくはないな。俺もまだ死にたくない」
「は、そうか」
「それに――」
一瞬、機嫌を直したようだったが。俺が軽口を叩きそうな気配に、女王は凄まじい凝視を向けてくる。
俺はそれには気づかないふりをしつつ、臨戦態勢を取る沖田に意識をやって、女王の美貌を見詰めながら言った。
「――お前のように可憐な少女に殺されると、俺が知己に殺される。事を構えるのは御免だな」
「は……?」
鳩が豆鉄砲を食らったような表情で、ペンテシレイアは呆気に取られた。
意味が分からない、といった表情に、糸口を見つける。ここか? ……ここだな。間違いない。幾度もの戦場を越えて不敗な、俺の心眼が冴え渡る。活路はここだ!
「私が……可憐、だと……? う、と始まる忌々しいあれではなく……? こんな筋張った体と、矮躯を見て尚そんな戯れ言をほざくか」
「ああ、どこからどう見ても、可憐な乙女だ。まあその可憐さも死神のものと考えるとゾッとするがな。正直怖気が走る。味方ならこの上なく頼もしいが、敵としたら恐くて堪らない。アマゾネスの女王の武威、軍神が如き将器、将帥に不可欠な慎重さと大胆さ……数え上げたら尚更嫌なものだ」
「ハ――ハハッ――ハハハハハハ――ッッッ!! ば、バカだ、こんな所にバカがいるではないかっ!? 私を……可憐!? はははははは!! 貴様、戦士でも英雄でもなく、ただの戯けだったか――!?」
ペンテシレイアは腹を抱えて笑いを爆発させた。
「――春、今だァッ!」
「はい! 我が剣にて敵を穿――ってあれぇっ!?」
馬腹を蹴って一目散に逃げ出した。沖田の襟首を掴み、馬上に引っ張りあげる。ぐぇっ、と呻いた沖田が怒り心頭に発して叫んだ。
「ちょ、隙だらけだった
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