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人理を守れ、エミヤさん!
幕間の物語「過去の出会い」
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構じゃないか。なら存分に《自分が破滅する様に絶頂してしまえ》。――そら手間を掛けるまでもなくお手軽にやれるだろう? しかも相手にも困らない、更に末長く永遠に、自分が生き続ける限り味わえる』

 キアラは。その言葉に、電撃を打たれたように立ち尽くした。

 ――なんて。なんて、ひどい殿方なのでしょう……。なんてサディスト、なんて鬼畜、なんて、なんて、なんて――素敵な発想を下さる殿方なのでしょう。私、恍惚としてしまいました……。

 我慢できなくなるかもしれない。しかしその痺れるような拷問の日々は、確かにキアラの性に爽快な快感を齎す。考えただけで足が砕けてしまいそうだ。
 これから先、何十年生きるのか。何十年も自分を、休みなく責められるのか。我慢できずに発散させてしまえばそこで終わり、でも我慢できれば永遠だ。逆転の発想、快楽を外ではなく内に求める。覇道ではなく求道への道。その階がすぐ目の前にあったなんて、欠片たりとも思い至らなかった。

『刹那的に享楽に耽る。確かに楽だが、お前には今の想像が忘れられない。いつか堪えられなくなった時がお前を破綻させるだろう。後悔に苛まれ、自滅してしまう。過ぎた快楽は思い出になる、だが識ってしまった快楽が《浅いものかもしれない》という想像がお前を殺す。誰かが手を下すまでもない。未来で他者を食い物にすれば、そのツケをお前はお前自身の手で払う事になる。……実に結構な事だろう。絶頂するのは自分が死ぬ瞬間まで取っておけ。それが何よりお前自身のためになる』

 そうして、男は余りにも簡単に――救世主となれる資質を持つ魔性菩薩を鎖で縛りつけた。
 その鎖は簡単に砕ける。だが、決して自分では砕いてはならないもの。何せ自分で自分を縛る事になるのだから。砕いてしまえば、自分も砕ける。

 門司は腹を抱えて笑った。可笑しくて可笑しくて堪らなかったのだ。

『がはははは! なるほどそう来たか、確かにそれなら■■の言う通りにするしかない! これはしたり、小生とした事がそんな発想は出てこなかったわ!』
『ガトー、お前の笑いのツボが俺には分からん』

 一件落着とばかりに笑い合う男達を尻目に、キアラは震えていた。涙を浮かべて、ふるふると。嫌々をする幼子のように髪を振り乱し。
 やがて、キアラは認めた。
 この男は自分を縛りつけた正義の(わるい)人。到らぬ己を導いて(しばって)くれた人。際限なく己を裁く善良(いじわる)な人。書物で読み思い描いた清い理想像ではなく、今そこにいる「人間」なのだと――「自分以外の人間」がここにいたのだと感じられた。

 激しい電流が殺生院キアラの総身を駆け巡る。これぞ天啓だ。運命だ。キアラはもう、生涯に亘って己を縛り続けるしかない。けれど――その鎖をそのままに快楽を得られる「人間」を
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