幕間の物語「過去の出会い」
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り、ぽろりと溢した。
『私はその時、確かに絶頂しました。しかしまだ足りない、物足りないとも感じたのです。――けれど。覚えたての自慰に耽るばかりでは蒙は拓けませんでしょう? ですのでいっその事、別の生き方をしてみるのはどうかと思い至ったのです。人を救いましょう、破滅させずにいましょう。禁欲生活、というのでしょうか? 溜めに溜めたものが破裂する時、或いは私も満足出来るかもしれない……その時をこそ私は待ち望んでいるのでしょうね』
『――なんだ。俺の勘も宛にならないな』
ふ、と。緊迫していた空気が弛緩する。キアラはおや? と眉を顰めた。てっきり――正義の味方そのものであるような印象の……書物で見たような清い人間像と結び付きつつあった男が。キアラにとって理想的に感じつつあった男は。
すんなりと、殺気を納めてしまった。
怪訝そうにするのは、何もキアラだけではない。門司もだ。この女が「魔性菩薩」とでも言うべき存在だと、■■も感じていたはずである。殺生は抜きにしても金輪際関わらないようにするのが最低限。しかし、男は笑った。それが彼、彼女には余りに不可解だったのだ。
多くの平行世界の■■■■なら、殺すべきだと断じるだろう。信念を曲げてでも。更なる犠牲者を出す前に。――人類悪に成りうると懸念を抱いて。
しかしこの男は違った。それこそが、彼の裡に在る■■■■の霊基とは決定的に異なる差異である。彼は困惑する門司とキアラに言った。
『過去の罪は消せない。だが動機はともかく、その罪を償う生き方になっている。なら俺から言う事は何もない。セラピストになるんだったか? 人の心を支えられるいい仕事だ。誇りになるだろう』
『……後の禍根となるかもしれないというのに、それを看過して捨て置く、と?』
キアラの中に、じんわりと失望が広がっていく。この男もやはり、彼女にとっての「人間」ではなかったのか。
しかしそんな失望なんて知らないとばかりに、男は言葉を続けた。
『かもしれない、だ』
『……?』
後の禍根になる「かもしれない」が、それがなんだというのか。
『ほぼ確実だと小生は思うぞ』
『それでもだ。現時点ではあくまで「かもしれない」でしかない。ならこうも言える。キアラは生涯我慢し続ける「かもしれない」ってな』
『――そんな、ひどい』
キアラは身震いした。これからずっと我慢し続ける生き方? 想像するだに最低の結末だ。そんな想像を目の前でされるだけでキアラは眩暈がしそうになる。
『ひどい? そんな事はない。お前は今、禁欲生活を自発的にしている。ならキアラには善悪の区別がつくという事だ。それに一度始めた事なら、最後までやり通せるのが人間の可能性だ』
『――』
『人が破滅する様でしか絶頂できない? 大いに結
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