幕間の物語「過去の出会い」
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。■■■■と同類ではない、しかし同じ異常者であるからこそ、ほとんど天啓のように男は思ってしまったのだ。
この女は、生きていてはならない。信条を曲げてでも、今すぐに殺してしまうべきではないのか。■■の瞳に殺意が滲むのは、彼自身の衝動だったのか。それとも当時の彼は自覚していない、内在する霊基が発する危険信号だったのか。いずれにせよ、殺すべきだとあらゆる世界線で■■■■が確信する存在だ。
殺生院キアラは笑う。頬に手を当てて、困ったように微笑んだ。
『何か酷い誤解をなされたようですね。私、人をこの手で殺めた事はございませんのに』
『破滅させて悦に浸った事はある、と云ったも同然だぞ』
『……あら。そう取られてしまいましたか』
■■は殺生院の出生を知らない。十四歳までどのように言えたのか。閉塞した世界で病弱に生き、外界の進んだ医療で病が癒え、そして現在に至るまで、何を思いどのような道を歩んで、どのような思想を抱いたのかを知らない。
しかし男は識っていた。内在する霊基の記録を持つ男は、実際には面識のない男を識っていたのだ。言峰綺礼という破綻者を。故にこそ、彼はそれを知る。
そして知られた事を思慮深き女は悟っていた。同時にあらゆる欺瞞も、おためごかしも通じないとも。それは――彼女の体を芯を貫く感覚だった。《今はまだ》、善良な聖職者である彼女の。
故に彼女は誤魔化さなかった。なんとなく、彼には真実を語ってみようと魔が差したのだ。もしかするとこの人は自分を殺すかもしれない――それがこの正義感に溢れ、強靭な意思を宿した剣の如き人を失墜させるかもしれないと、なんとなく感じて。なんとなく、その様が酷く法悦の予兆を感じさせたのだ。
殺生院キアラは訥々と語る。まるで自らの恥部を晒すかの如き行為に恥じらうように、頬を染めて。
自身が生まれ育った環境。十四歳まで寝たきりだった事。戒律に囚われ自分を可哀想と言うだけで、救おうともしなかった周囲の人々の姿から、彼女が読み解いてきた書物にある清い人間像が消え失せた事……。
そして。
もしや人間と呼べるものは、もうこの世にはいないのではないか。いたとしても自分唯一人なのではないかという思いに取り憑かれ。十四歳の時に家の信者から外界を知った事で最新の医療を受けられ、病気は快癒した事。その後閉鎖的だった詠天流を改革し、父親から女であるにも関わらず女と一体になろうとする、悟りそのものを否定するという、宗派の禁忌を二つ犯したという名目で破門された事。その翌日、父親の髑髏本尊を持ち去って、師の術具を奪うという最後の禁忌を破り、信者同士を殺し合わせ、自分以外全て死者となった教団を立ち去った事。
包み隠さず話した。門司も、■■も険しい顔でそれを聞いていた。その突き刺すような眼光に痺れ、女はついうっか
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