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人理を守れ、エミヤさん!
幕間の物語「過去の出会い」
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に言い聞かせる。彼とて利用する事はないのだが、この土地の言語の読み書きも問題なく行える為、ホテルに入る前から気づけたのだ。

 部屋に通された■■は、まず口頭で礼を言われる。何故か手を握られながら。
 男ならどぎまぎしてもおかしくない。少女の域を脱したばかりの女には、他者から愛されやすいフェロモンがこれでもかと発されていた。それ故に暴漢に襲われたのだろうと察しがつくほどに。しかし、後に鉄心となる男は動じなかった。
 さらりと手を離しながら気にするなと応じ、出された茶を普通に飲んで、そのままさよならをする構えを見せる。これに女はほんのりと驚いたようだった。
 さりげなく女はその男を引き留めつつ、雑談にもつれ込む。その話術は切りどころが見つからず、ついつい長話をしてしまう。やがて男は女に旅の目的を聞いた。彼女は言う、悩める人々を解脱に導く助けをしたいと。その人の苦しみを取り除いてやりたいのだと。
 高尚な志である。門司は苦々しい表情で。ふと男は気づく。この女が武術の類いを修めている――それも■■よりも優れた腕を持っているのではないか、と。それになんとなく血腥い……魔性の引力があるようではないか。新興宗教でも興しそうですらある。

 しかし、本人にその気はなさそうで。セラピストになる為の勉学に励んでいるそうな。

 男は問う。何故、人の苦しみを除きたいんだ、と。彼自身由縁の定かならぬものに突き動かされている身だ。なんらかの共感のようなものがあったのかもしれない。しかし、それは直ぐに消える事となる。

『さあ? 強いて言うなら愛の為、でしょうか。私は私の愛の為に、人という人をみんな、気持ちよく幸せに溶かしてしまいたいようなのです』

 ――自己中心的な愛を、自分の為だけに広め、それが結果的に人の為になる。
 その告白は■■の行動原理に似通ったものだった。彼自身も自分自身の為に、生きた証の為に人を救おうとしている。故に感じるべきは感動か、共感か。いずれかでなければならないだろう。しかし男が感じたのは悪寒だった。拭いがたい不吉さが滲んでいる。
 文字通り、縋った者を溶かしてしまいそうな。
 彼女なら確かに優秀なセラピストになるだろう、多くの人の心を救うだろう。――だのに、感じる血の臭いはなんだというのか。魔性の気配は。華開く大魔の蛹が孵化する寸前のような悍ましさがある。人によってはその浮世離れした人格を、解脱していると感じてしまうかもしれない。男は半ば確信を懐き、ほとんど断じるように告げる。

『殺生院と云ったか』
『キアラと。そうお呼びください、素敵なお方』
『……キアラ。お前……人を殺した事があるな?』

 人を殺した者のみが纏う……否、殺した人間の事を虫けらのように感じている破綻者のみが纏う、人の世から浮き出た異常な性
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