だいたいチーバくんのおかげでややこしくなった話
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な自然な短髪、スラっとした鼻筋。眉毛も細眉で、よくある手入れに失敗したような不自然な感じではなく、ナチュラルな印象だ。もともと形がよいのだろう。しかも柔らかそうだ。
そして、野球少年らしい純粋な光を放つ瞳。これが何よりも素晴らしい。視線がまともに合いそうになるとバツが悪そうに目を逸らす仕草も、何か心をくすぐられるものがある。
そんなことを考えながら、総一郎はカモフラージュのノートを別の教科のものに交換しようとした。
が……。
(――!)
スクールバッグのポケットから、愛用のハンドタオルが飛び出し、床に落ちてしまった。
それは所持品の中で、もっとも目の前の人物に見られたくないものであった。
生地がピンク色で水玉模様の、チーバくんのハンドタオル。明らかに、相手が描いているであろうこちらの像には合わないアイテムだ。
(しまった……)
無情にも広がりながら落ちたため、中央に特殊なポーズで描かれたチーバくんまでしっかり見られてしまった。この一ヶ月で彼に対し慎重に与えてきたイメージが……と焦る。
せめてもの初期対応ということで、顔に出ないよう表情筋に集中した総一郎。その眼前で、彼の手がサッと床に伸びた。
拾ってくれたのだ。
チーバくんのハンドタオルを掴んだ彼の右手は、まもなくこちらに差し出されようとしている。手と同時に来るのは、あからさまな嘲笑か。それともドン引きな顔か。
構える総一郎だったが――。
「落ちたよ」
かけられた言葉は、そんな平凡なものだった。いや、言われなくてもわかっているぞ? そう突っ込めるような言葉だ。
彼の表情も、いつものとおり朴訥そうで、かつ真面目なものだった。嘲笑の成分などまったくなかった。
あらためて、差し出された彼の右手を見た。
ハンドタオルが微妙に邪魔だ。ポジションはピッチャーで右投げだろうと推測するに至った指のマメや、バッティングのほうは左打ちなのだろうという推測に至った手のひらのタコは見えない。
が、その代わり、ほどよいゴツさのある指先と、深く切られた爪がいつもより間近で見えた。
手と手の距離がわずか数センチということに、気分が高揚する。
(いや、見とれている場合ではない……か?)
予定では、もう一、二週間ほど後になってから話しかけるタイミングをうかがうつもりだった。だがこの状況、チャンスととらえ、存分に利用すべきなのではないか? 総一郎はそう思った。
礼を言ったあと、そこから話を広げてみてはどうだろうか。うまくいけば、今日にも「他人」から「他人以上友達未満」への昇格が果たせるかもしれない。そうなれば、今日という日は祝日化してもよいほどのめでたい日となる――。
「すまない。ありがとう」
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