だいたいチーバくんのおかげでややこしくなった話
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い上げ、彼に差し出した。
「落ちたよ」
イレギュラーな展開で頭が整理できていないままだったので、落ちたことを明らかに認識済であろう彼に、さらに指摘の言葉をかけてしまった。そのおかしさに気づく余裕もなかった。
「すまない。ありがとう」
彼の薄い唇から、言葉が発せられた。初めて聞いた彼の声は、その顔同様に理知的な鋭さを感じさせるものだった。
眼鏡を中指で直してから、スッと伸ばされた彼の手。受け渡しの瞬間、手と手の距離は数センチほどまで接近した。いつも観察はしているが、あらためて間近で見るその手は、絹のような白さとキメの細かさだった。野球部でピッチャーをやっている隼人のマメとタコだらけの手とは、まったく異なっていた。
受け取ったハンドタオルをバッグに戻す様子を目で追い、そのまま彼の表情を確認する。毎朝見てきたものと変わらない、冷静沈着な秀才のマスク。
(あ、これって。見とれてる場合じゃないのかな……?)
これはチャンスか。いや、あえて向こうがチャンスを作ってくれたのか? 仲良くなるきっかけは落とし物から――そんな話も聞いたことがあるような気がする。印象とは正反対のご当地ゆるキャラグッズを落とし、わざと隙を作ることで、こちらが話しかけやすい状況を作ってくれたのか?
そんなことを思った隼人は、相手のためにもここは何か話しかけないといけないと、自信のない頭を一生懸命回転させようとした。しかし、やはりうまい話しかけ方がなかなか思いつかない。
焦った。この機会を逃すと、次のチャンスがいつ来るかわからない。
「あのさ。いつも俺の前に立ってるよな?」
結局、他に球種が思いつかなかった隼人は、直球を放った……が。
「ああ。君はいつもこの次の駅で降りるから。そのあと空いた席に僕が座れるからな」
隼人の頭に、ピッチャーライナーが直撃した。強い、衝撃。
(うあああ! そういうことだったのかよ!!)
そしてそのあとは、今まで経験したことがないような恥じらいの熱を顔に感じた。実際に発火したのではないかと思うほどだった。
「あっ、そ、そうだよなっ。立ったままだと疲れるもんな。アハハハ」
慌てて作り笑いするのが精一杯だった。
最初から勘違いをしていたのだ。彼は別にこちらに興味があるわけではなかった。こちらと話したいなどという思いがあるわけでもなく、ただの席取り要員としてしか認識していなかったのだ。
(やべ、これスゲー恥ずかしいやつじゃねーか)
よく考えたら、こんないかにも秀才というオーラの人間が、自分のような運動バカを相手にするわけがなかったのかもしれない。自分、何を勘違いしていたのだろう――。
がくりとうなだれ羞恥に駆られ続けていたら、あっという
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