純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 19
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く見積もって二十人くらい?」
「……軽い見積もりで言い当てないで欲しいわ。なんとなく腹が立つ」
「楽しかったでしょう?」
「おかげさまでね」
「それはなにより。はい、今回の報酬」
袋状になっている右袖に左手を突っ込み、取り出した白い封筒を女性に手渡すプリシラ。
暗闇の中で赤黒く見える封蝋には、水を撥ねて飛び上がっている丸みを帯びた可愛いらしい海洋生物の絵が刻まれていた。
「外交官補佐の登用試験も、余裕で一発合格だったそうよ。領主候補に入るまであと一歩、といった所ね。貴女が獲物を仕留めるのと、爵位を継いだアルフィンちゃんが貴女を迎えに来るのと……果たしてどちらが早いのかしらね。それも楽しみじゃない? ねぇ、イオーネ?」
「…………。」
ニヤニヤと厭らしい目付きで見下ろすプリシラから無言で封筒を引ったくり、真っ暗闇の中へと踵を返すイオーネ。
その右手に握られていた筈の剣は、いつの間にか腰帯に吊るされている鞘にしっかり収まっていた。まるで、封筒と剣を一緒に持つのは嫌だとでも言うように。
「あ。待って、先生。まさか、もう寝ちゃうつもり? あの子達の成果は見届けてあげないの? 皆、待ってると思うんだけど」
「どうせ、傷一つ付かずに全員捕まえてるんでしょ? 確認するまでもないわ。後始末だけはきっちりしておきなさいって伝えておいて。じゃ、おやすみ」
「その通りではあるのだけど……分かった。伝えておくわ。おやすみなさい、先生」
もう此処に用は無いと態度で語り、スタスタと足早に黒く溶けて消える暗殺者の背中。
素っ気無い言葉には妙な信用も垣間見えて、窓を閉めながら見送ったプリシラは口元に手を当ててクスクスと楽し気に笑う。
「どちらが真の身内バカなのかしらねぇ」
約四年前、ミートリッテに続く形である程度傷が癒えてから王都へと護送されて来た暗殺者イオーネは、何故か軍の監視下には置かれず、プリシラの目論見通り、高位の役持ちだけが知る中央教会の地下室にこっそりと収容された。
其処でプリシラとイオーネが秘密裡に交わした取引の内容が、「一定の自由と引き換えに王都内の孤児院を警護する傍ら、子供達に護身術を施す」というものだ。
衣食住の保障と警護の報酬、暗示で封じられていた声の解放に、ミートリッテの命を狙える距離。イオーネにとってはこの上ない好条件。
断る理由などある筈もなく、正式な就任以来イオーネは子供達に「先生」と呼ばれ、とても懐かれていたりする。
ちなみにプリシラが先生と呼んでいるのは、懐かれて満更でもない様子なのに今以て暗殺者気取りを捨て切れていない彼女への皮肉の意味もある。
警護係とは言え、孤児院に来てからは誰一人殺してはいないのだが……。
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