第三十七話 兄からの禅譲その十
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「では」
「受けてくれるか」
「断る訳にはいきませぬ」
「越後と民、そして天下の為にか」
「それがしは戦います」
「そうしてくれるか」
「是非」
こう返事をした。
「そうさせて頂きます」
「ではな」
「わたくしはこれより毘沙門天のお心のままにです」
「降魔の戦をしてか」
「天下に泰平をもたらします」
「それではな」
こうしてだった、景虎は長尾家そして越後の主となった。そうして晴景は隠居して静かに暮らす様になった。
その景虎の前に細面だが何処か狼を思わせる鋭い顔立ちをした男がいた、その彼が景虎に言っていた。
「この度は当家のご当主になられ何よりです」
「はい、そのお言葉確かに受け取りました」
景虎はその男長尾政景に峻厳な声で応えた。
「ではです」
「それがし殿に二心ないことを約束します」
「誓われますね」
「今ここに」
「ではです」
それならとだ、景虎は政景に告げた。
「貴方のご子息をわたくしの子にもらいたいのですか」
「殿のですか」
「わたくしは妻を持ちません」
毘沙門天への信仰故にというのだ。
「ですから子も持ちません」
「それ故にですか」
「跡継ぎとしてです」
長尾家、そして越後のというのだ。
「貰い受けたいのですか」
「左様ですか」
「宜しいでしょうか」
政景の目を見て問うた。
「それで」
「それで宜しいのですか」
政景は信じられぬという顔で景虎に問い返した。
「それで」
「はい」
これが返事だった。
「その様にお願いします」
「ではその様に」
政景は頷くしかなかった、こうしてだった。
景虎は彼を大人しくさせるだけでなく跡継ぎの問題も解決した、このことに柿崎は驚いて本庄に言った。
「わしは恐ろしい方を主に持ったわ」
「はい、まさかです」
本庄も驚きを隠せない顔で応えた。
「新五郎様をああして取り込まれるとは」
「わしはじゃ」
柿崎はここで自分の考えを述べた。
「新五郎様についてはじゃ」
「もう放っておけぬとですな」
「思っておってじゃ」
それでというのだ。
「殿が命じられればな」
「その時にはですな」
「即座に討つつもりであった」
「それがしももうです」
「仕方ないと思っておったな、本庄殿も」
「このままではです」
まさにとだ、本庄は柿崎に答えた。
「越後、そして長尾家が二つに分かれるとです」
「思っておったな」
「あの方は常に主の座を狙っておられます」
長尾家、そして越後のだ。
「そうした方なので」
「もう放ってはおけんかったわ」
「常にそう思っておりましたが」
今度は本庄が柿崎に問うた。
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