暁 〜小説投稿サイト〜
人理を守れ、エミヤさん!
欠ける無限、禁忌の術
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 ディルムッドの槍が技に長けるように、フィンの槍は力に長けている。純粋な身体能力ではディルムッドをも超えるフィンと、『輝く貌』の双槍騎士に前後を挟まれた沖田は汗を噴き出す。こうなる事は分かっていた、なんとかして脱さねばならない。これは死地だと本能が叫んでいる。

 やむをえず沖田は再度、縮地の歩法を刻む。

「消えた……!?」

 ディルムッドが驚愕する。不意打ちの一撃の時ならいざ知らず、こうして矛を交えている最中にその姿を見失うなど経験した事のない現象である。
 だがそれで致命的な隙を晒す騎士ディルムッドではない。彼は弛まぬ鍛練によって心眼を開いた武芸者なのだ。すぐさま敵の狙いを看破し警告を発する。

「主よ、後ろですッ」
「何!?」

 フィンはディルムッドの警告に驚愕しながらも、振り向き様に槍を振るう。沖田は狙いを読まれた事に瞠目した。「ぜりゃッ!」フィンの迷いなき槍の一閃は沖田の胴を確実に砕く一撃だ。下手に受ければ刀が曲がる。沖田は刹那の判断で鞘を楯にするも、フィンの豪槍に鞘が弾き飛ばされ、余りの衝撃に手が痺れた。所詮は脆弱な身、フィンの槍をまともに受けたらそんなものでしかない。
 だがそれでも、沖田はあくまで己の弱点を知悉している。力で負ける、武器の格で負ける、体力では話にもならない――しかし剣技は負けない。それは誇りではなく、実際に両雄と剣を交えたが故の確信である。逆に言えば勝るものなど他に迅さしかないのだ。

「せいッ!」
「く、荒々しくも可憐な華だ!」

 鞘を弾き飛ばされながらも沖田は踏み込み、フィンの懐に肩口から体当たりする。全体重を乗せたそれがフィンに痛痒を与える事はなかった。
 新撰組の極意とは、多数で一人を叩く事。多数を一人で相手取るならまずは逃げる、逃げられないなら一対一にしてしまえばよい。沖田はその儚げな風貌からは想像も出来ないほどに苛烈な性を秘めている。そしてその天稟の才覚は剣のみに非ず――体当たりをフィンに食らわせた瞬間、沖田は刀を手放していた。
 剣にばかり拘る壬生の狼ではない。沖田は自覚こそしていないが、古代の英雄らに勝る一つの特性があった。それは古代の英雄が人間だけでなく、怪物狩りを主としていたのに対し、近代の剣者である沖田は対人に特化しているのだ。対人戦の心得という面で、彼女は優位に立っている。
 故にフィンには慮外の技だった。体当たりされるや手首を掴まれ――そうと感じた瞬間に投げ飛ばされていたのだ。

「なっ――」

 いつの間に投げられた……? フィンは見事に投技を極められ、強かに背中を地面に叩きつけられる。受け身も取れずにフィンは呻いた。
 だが追撃はない。即座に刀を拾った沖田はまだ冷静だった。全身が熱い、汗が滲んでいる、決着を早めたい。しかしフィンは殺せない
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