欠ける無限、禁忌の術
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。栄光のフィオナ騎士団の一番槍にして、随一の勇者と誉れも高きディルムッド・オディナだ。
赤い長槍、黄の短槍。未だ嘗て一度も見た事のない奇術めいた技の奇跡。加えて――
「チッ」
沖田は露骨に舌打ちする。フィンを仕留める絶好の好機なのだ。彼を振り払い体勢を立て直そうとしている騎士団長を葬らんと地を蹴るも、それに張り付くようにしてディルムッドが追い縋る。それも常に長槍の間合いを維持してだ。速射砲の如く槍突が放たれ、沖田はこれを悉く躱し、刀で捌くもフィン・マックールにトドメを刺す好機を潰されたのを悟る。
ディルムッドを振り払えない。最速の座に据えられるに相応しい敏捷性を彼も持っているのだ。その機敏さは沖田に匹敵する。そして沖田を苛立たせるのは、ディルムッドの方が『速い』事だ。
時代の差、性別の差、性能の差が大きかった。例え数値の上で素早さが同格であっても発揮できる最大速度はディルムッドが優に沖田を超えている。――神代の男の英雄と、近代の女剣士の性能の差が残酷に横たわっているのだ。幻惑の槍術と単純な性能の差によって沖田は苦戦を強いられる。
沖田はフィンへの追撃を断念し、ディルムッドの槍の技を覚えるのに専念せざるを得ない。離れれば長槍の閃きが沖田を襲い、巧く刀の間合いに近づいても短槍の技が沖田の接近を阻む。厄介な敵手だった。
縮地は多用できない。三段突きなど以ての外。例え上首尾に事を終え、フィンかディルムッドを仕留められたとしても、これまでの経験上高確率で、呪いの如く沖田を蝕む病魔が鎌首をもたげるだろう。そうなれば無防備な所を襲われ、沖田は死ぬ。主の命令は二騎のサーヴァントの足止めだ。無理をせずとも頼りになるマスターが必ずや援軍に駆けつけてくれる。それを信じて、自らの体力の無さを痛感している沖田は奮闘するのだ。
浅葱色の閃光がジグザグに大地を駆ける。それに完全に張り付いて赤と黄の双光が馳せる。虚空に刃鳴散る火花の宴は技と技、力と力の鬩ぎ合い。ディルムッドは舌を巻く、華奢な女の身でよくもやる、と。力では明確に上回っているのに、技の冴えだけで劣勢を互角にしている。
称賛に値する。だがしかし――直情的な沖田と異なりディルムッドは搦め手も使える戦上手である。戦闘の引き出しもまた、若くして病没した沖田よりも、多様な戦場を駆けたディルムッドの方が多かった。
チリ、と沖田の生まれ持った天性の心眼が違和感を訴える。今、何かがおかしかった――その正体に目を凝らす隙を彼女は与えてもらえない。
矛を交わしているのは何も、ディルムッドだけではないのだ。復帰したフィンが槍をしごいて突貫してくる。初撃の奇襲から流れを掴まれ、あわやといった所まで追い詰められたフィンだが、仕切り直せてしまえたら先のように簡単に蹴散らされる英雄ではない。
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